07/18の日記

00:04
鬼ごっこ 20
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「…ここがそうなのですか?」
「ああ。以前、緋がここから姿を消したのを見た」

白い光を放つ、丸い形を見下ろしながら、隣で冷や汗をかいている深藍の事は気にせず朱殷は話を続けた。

「おそらく、緋も結芽も…安心しろ、弟もいる」
「……ですか」

朱殷に微笑みを向けられ、深藍の汗の量が増える。

「どこに繋がっているんです?」
「よく分からんが、迷い込みを増やしている黒幕…がいる場所なんだろう?」
「誰に聞いて…」
『おそらくな。我が言った入口もここじゃ』

突然、何処からか聞こえてきた声に、烏場と深藍の顔に緊張が走る。
これだ、と言いながら挙げられた朱殷の手の平には、キラリと光る赤い玉が乗っていた。

「ならば、間違いなく紅の片割れの仕業だな」
『じゃから、瑠璃は無理矢理に、』
「これは…本当にガラス玉がしゃべっていますね。見るまで信じられませんでしたが」
『おぬしの説明が雑なんじゃ、もっと敬え!』
「…行くぞ」
『コラ、無視するな!』

朱殷の身体が白い光に吸い込まれる様に消え、烏羽と深藍も後に続く。
降り立ったそこは、到底島の中とは思えない、どこぞの城らしき場所だった。




緋が部屋を出て行ってから、莉緒はソワソワと落ち着かなかった。
ななみもそうなのだろう、握った急須を《ガチャン》とひっくり返し、「きゃあ」と小さく声を出した。

結芽と青藍を出してもらうよう、主に頼むつもりなのだろうが、そう簡単にいくのか。
おそらく、結芽は緋が独断で招き入れ、師匠に引き合わせたのだと思う。
主がそれを知ったら、緋に何か制裁を加えるのでは…と不安なのだ。
結芽は城に来てはならなかった…仕方のないことだけど。

ふと、緋が師匠の強さを興奮しながら話していたのを思い出した。
結芽の姿が見えなくなったなら、師匠も結芽を探しているだろう。
もし、ここへの入口を知っているなら…見つけてくれるなら。

そう思うと、ここでじっとなんてしていられない。

「ななみ、部屋の外まで行ってくる」
「…わ、わたしも行く!」

莉緒は結芽と青藍を見つけた時の様に、見つからないように気をつけながら、たまに部屋から出ていた。
一人で迷い込んだ女の子が居たら、鬼より早く、この部屋に匿うために。
しかしなかなか上手くいかないのが現状だ。

一人の方が目立たないし、ななみはいつも部屋に残すのだが、今回は自分から声を上げる位、緋を心配しているのが伝わってくる。

「見つかる可能性もあるわよ?」
「分かってる」

ななみは不安気な表情ながらも、しっかりと頷いた。



「片割れの趣味か?」
『知らん。違うと思う…』
「お城にしか見えないね〜」
「女の子には受けが良いのかもしれませんよ」

部屋を出てから、そんなに時間は経っていない。
数人の聞いたことのない声が耳に届く。
はっきり聞こえた訳ではないが、迷い込んだ女の子のものではない…自分達からここへ来たような物言いだ。
もう少し様子を見ようと聞き耳を立てる。

「片割れの気配とか分からないのか?」
『うむ…微かに感じる気もするが、何か隠されている様な…はっきりせん』
「けっこう広い空間の様ですね。全部の部屋を調べてまわるのは手間かと」
『半分くらいはまやかしみたいなものじゃて』
「蔦の反応は…奥の方ですが」
「やっぱりボスは一番奥か最上階だよね」
「とにかく行くぞ、結芽が待っている」
「あ、あの…っ!」

青い絨毯の階段を上り、奥へと歩き出す一行に、莉緒は声を掛けた。
おそらく皆、鬼だと思うが、怖がってはいられない。

「…誰だ?」

女性の鬼なのだろうが、低い声で威圧感があり、莉緒は少し怯んだ。
しかしその着物を見て、間違いないと確信する。
結芽と同じ、桜の刺繍が美しい着物。

「師匠…さんですよね?」

着物の鬼は莉緒の方を向き直った。
緋以外から師匠と呼ばれた事はないはず。

「何故そう呼ぶ?」
「私達、緋に助けられたんです。今度は緋を助けたいの」
「緋はやはりここに出入りしているようですね」
「結芽も来てるわ。あと…あら、青藍…いや、違う?」
「やっぱりか…青は弟だよ」
「緋と結芽は一緒に居るのか?」

師匠の眉間に皺が寄っている。
必死に感情を抑えている様な表情だ。

「ええ、おそらく主のいる所よ。案内するからお願い、助けて」



莉緒とななみに案内され進む朱殷達の先で、《ガシャン》と扉が閉まった様な音が響いた。
こんなに大きな音を出すのは、主の玉座の間の扉くらいだ。
それに続き、バタバタという複数の足音も響く。

「…何!?」

烏羽が莉緒とななみの腕を掴み、自分に引き寄せる。
同時に朱殷と深藍が前へ出た。
警戒する一行の元に現れたのは、緋を脇に抱えて走る青藍だった。
その後ろから複数の鬼が追ってくる。

「緋…青藍!」

朱殷の声に反応した青藍は、後方をチラリと見た後、こちらへ思い切り緋を放った。
直ぐに踵を返し、向かってくる鬼に技を繰り出す。

「ちょ…ちょっと!」

莉緒が叫ぶより速く烏羽の蔦が数本伸び、緋の身体を受け止める。
そのまま莉緒とななみの元まで運び床に降ろすと、しゅるしゅると蔦が引いていく。

「スゴイ…便利」
「ななみ、変なトコ感心してないで…緋!」

莉緒が緋を揺さぶるが、目は開いたままで反応がない。
呼吸はしているので生きているのは分かるが、指先さえもピクリとも動かないのだ。

「…どうしたのかしら」
「おそらく、操られている状態なのでしょうね。抵抗してはいけないような…状況だったとか?」
「そんな…!」

深藍が青藍の加勢に向かい、暫くの間は大砲でも打ったかの様な地響きや拳の交わる音がしていたが、その内に静かになった。
追いかけて来た鬼達は皆倒れている。
青藍と同じく深藍も、他の鬼と比べ強いのだろう。

「…説明してもらおうか」

静かに見ていた朱殷の、刺すような視線と低い声に、青藍は青ざめている。

「結芽を連れ出したのは申し訳なく…」
「それは後だ。莉緒からも話は聞いた、今の状況だけ話せ」
「…緋の腕を奪えと指示をされた」

莉緒とななみが小さく叫ぶ。

「俺が操られているか確かめたかったんだと思う。とっさに動けない緋を抱え連れ出した」
「よく正気でいたな、青」
「本名を明かさなければ良いんだ。おそらく主は、緋が結芽の存在を隠していた…いや、独断で招き入れた事を怒っている」

青藍は玉座の間であった事を話した。
朱殷の眉間の皺が増えていく。

「結芽を取り返しに行く」

朱殷が扉のある方向を睨み付け、走り出そうとした時だった。
動かなかった緋が突然起き上がり、側にいた烏羽に飛びかかった。

「………!?」

間一髪、烏羽は身を翻し避けたが、体制を整えた緋は直ぐに、また攻撃してくる。
止めようと走り寄った青藍と深藍にも同じく技を繰り出す。
朱殷の弟子である緋だ、スピードも威力もあり、他の鬼より遥かに強い。

「緋!」
「どうしたの!?」

突然の緋の行動に驚き、皆が攻めあぐねていると、緋は朱殷の姿を見付け、今度は頭上に飛び上がり、両手で炎の玉を作り出した。

「…これも奴の指示か」
「し……しょ、う…っ」

緋がその玉を放とうとするより速く、空中に移動した朱殷の一撃で、緋は気を失った。





つづく!

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