07/24の日記

23:05
鬼ごっこ 21
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「…やっぱりか」

青藍が、緋に近付き腕を落としてしまうかと一瞬ヒヤリとしたが、緋を連れて出て行ったのを見て息をついた。
やはり青藍は操られていなかった…ということだろう。

ホッとした様子の結芽を見てか、主がつまらなそうな表情をする。

「お仕置きにならないよねぇ…かわりに結芽がお仕置きされる?」

未だ繋がったままの状態で、何度か軽く突き上げてくる。
ああ、と喘ぎながら、青藍がいなくなった今、一人残された状況に不安を強く感じてきた。

「ふふ、可哀想だからそんな事しないよ。結芽とは気持ち良い事がしたいし…これから時間はたっぷりある」
「……っ」
「緋には…そうだな、仲間と決別してもらおうかな」
「何、するの…っ」
「ん?だって仕事に専念してほしいからね…他に居場所を作られたらちょっと。君みたいに、僕に会えずに怖い鬼達に囲まれて生活するのは可哀想じゃないか」
「…ここに居る方が可哀想よ、あなたが勝手に呼んだのでしょう?緋を使って」
「もう怖い顔しないで。怒った顔も素敵だけど…結芽、暫く二人きりになって仲良くなろう」
「え?」

結芽に挿し込まれていた主のものが急に引き抜かれた。
結芽は思わず声をあげる。

「ああ、すぐにまた繋がれるから寂しくないよ」

青藍を追いかけず残っていた鬼が、結芽をぶら下げている紐を切った。
両手首を縛っていたものが無くなり急に身体が重くなった感じがし、更に長い時間拘束されたせいで両腕が固まり動かせない。
女の子二人も離れると、足は床についているのに、身体を支えられず膝が折れ座り込んだ。

「痛、た…っ」
「大丈夫?ちょっと休んでて」

二人の女の子は、主の指示でベッドに戻って行く。
主が右手を挙げると、手の平の中に小さく青い光が見えた。
さっきも同じ光を見た気がする。
一瞬、身体がほわん、と浮いた感じがしたが、すぐにそれは感じなくなった。

「これで邪魔されない…と思ったんだけど。面倒臭いね」

紐を切った鬼と他の鬼も数名、主を守るようにして並ぶ。
ここにはこんなに鬼が居たのだ。

「結芽、もう少し待って。結芽を惑わす怖い鬼は追い払おう」

どっしりとした大きな扉が、ギギギ…と音を立てる。
誰が入ってくるのだろう。
青藍が戻ってきたのか、緋が青藍を振り切って主の元に帰ってきたのだろうか。
しかし、複数の足音の様に思える。
人が入って来られる幅に開いた所で、もう待てないと言わんばかりの勢いで入って来たのは。

「…朱殷!」

赤い髪は、今朝、結芽が結ったままだ。
黒い角が伸び、鈍い光を纏っている。
結芽も見た事がない、冷たい眼と厳しい顔つきで、朱殷の元に走り寄りたい気持ちを躊躇させる雰囲気だ。

しかしそれ以前に、結芽の身体は強ばって動けない。
何も身に付けず、座り込んでいる姿を見て、朱殷はどう思っただろう。
思わず涙が溢れる。

「結芽泣くな。迎えに来たんだ、すぐ帰るぞ」

掛けられた声は、いつもの朱殷のものだ。

「ちょっと、勝手な事言われたら困るんだけど。結芽は僕のだからね」
「勝手なのはお前だ。結芽を返してもらうぞ」
「…あれ、緋は倒されちゃった?可哀想に」

朱殷の後ろには、青藍と、双子の片割れだと思われる、そっくりな鬼がいる。
そこに緋の姿はなかった。

「緋を奪っておいて…結芽まで連れてくつもり?朱殷さん」
「緋も結芽もお前のものではない」
「結芽は人間の僕と一緒の方が幸せだ。鬼なんて野蛮なだけだよ…鬼同士、酷い争いだったよね?」
「お前には関係ない」
「でも僕、朱殷さんが頑張ってるのいつも見てたよ」
「見てた…?やはりあの頃からお前が鬼を操っていたのか?」
「え?僕?やだなぁ、僕は野蛮なのは嫌いだ。それは先代の主だよ」
「先代?」

主には先代が居たということか?
そういえば、杏と柑子が話していた。
ある時から鬼が荒れるのが収まり、その頃から迷い込みの女の子が増えたのだと。

「先代は闘うのとか好きだったんだよね…あ、爺さんだからね、それを見物するのが、さ。趣味悪いよ」
「…そいつはどうした?」
「え、何度か殴ったらあっけなく…ま、爺さんだったから。正直、僕は争いなんて退屈でさ、だから自分の好きな世界を作ろうって思って」
「これがその世界か?」
「大好きな女の子達と皆で幸せに暮らすんだよ、素敵じゃない?元の世界じゃ誰も分かってくれなくて殺されかけたけど」

はあ〜っと、首を振りながら大袈裟に息を吐いた。

「逃げ込んだ小屋もろとも燃やされるって、酷いと思わない?」

焼け落ちる前にその小屋から脱出を試み、無理に出口を作った所…この島に迷い込んだらしい。

「だから、こっちでは好きな様に生きるんだ。邪魔しないでくれるかな」
「…そっちこそ黙れ。貴様の話など聞きたくはない」

言葉を聞き終わる前に、いつの間に動いたのか、朱殷の身体は主の目の前にあった。
腕が伸び、右手の拳が主の顎に当たる…様に見えた。

「……!?」

朱殷の拳は《ぐにゃん》と何かに当たり跳ね返された。

「残念。僕と結芽には触れる事は出来ないよ」
「何?」
「君達と僕達は別の空間に居るんだ」
『瑠璃の能力じゃ、主は瑠璃を取り込んで自由に扱っておる』
「瑠璃は抵抗しないのか」
『ほんに気の弱い奴でな…』
「紅が側に来ているのに?」
『さっきから瑠璃に呼び掛けているんじゃが…微かに存在を感じる位じゃ。やはり空間が違うからか』
「紅は空間を無効に出来ないのか?」
『あれは瑠璃だけの能力でな。我には扱えん』

青藍が「馬鹿げている」と叫びつつ、主に向かって攻撃を仕掛けたが、結果は同じだった。

「諦めて帰って。何も出来ないんだから」

主を守る様にして立っていた鬼が、朱殷達に向かっていく。
軽く攻撃をかわしているが、三人とも苛立っているのが結芽にも分かる。

その時「ユメ!」と聞き覚えのある声がした。
開いたままの扉の方を見ると、そこに走り込んできたのは緋だった。
続いて、烏羽と莉緒、ななみもいる。

「緋…!無事だったのね!」
「目が覚めた途端、走り出すものだから…蔦も引きちぎって」

追いかけてきたらしい、烏羽が苦笑いしている。

「…おや、緋じゃないか。気配が消えてるんだけど。僕の手を離れちゃったの?」
「そうだよ、もう言う事なんて聞かない!ユメを返して!」
「なんだ、つまらない…そっちにもそういう事出来る奴いるの?」
『我じゃ、我!』

紅玉が叫ぶが、主にも結芽にも聞こえない声である。
朱殷が緋を気絶させた後、紅玉が『これならできる』と解除していた。
緋が目覚めるまで、烏羽と莉緒、ななみで見守っていたのだが、目を覚ますと直ぐに飛び起き走り出した様だ。

「帰ってもらおうと思ってたけど…ウルサイ奴らだね。まとめて処分しよう」
「ちょっと、何するの!?」

主が右手を上げると、ギギギ…と音を立て、扉が閉められた。
更にまた、手の平が青く光る。
あの光はいけないと、結芽はとっさに主に飛びかかろうとしたが、思うように動けず、左腕で簡単に払いのけられた。

「結芽…余計な事したらお仕置きだよ」

城の玉座の間だったはずが、ゴツゴツした岩に囲まれた場所に変わっていく。
天井までが、岩だらけなのだ。
考えてみると、ここは中央の岩山で、本来はこういう場所なのかもしれない。
ここに城がある方がおかしい。

「さあ、皆、潰されてしまえ」

ガラガラガラ…と、聞き覚えのある轟音が響く。
この音が始まると現れるのは何か、結芽にも分かる。

そう、四方八方から現れたのは、無数の岩鬼達だった。






つづく!

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