08/08の日記

00:53
鬼ごっこ 22
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ガラガラガラ…という轟音の中、一体の岩鬼が姿を現すと、続いて二体、三体と増え、そこからは目で追えない程になってきた。
岩鬼が周りを囲み、その場に居る皆は逃げ場がない状態となり、自然と中央に集まる。

「…面倒臭いことになったな」

青藍が呟き、深藍と共に岩鬼に向き合った。
緋もその反対側で体勢を整える。
烏羽が莉緒とななみを呼び寄せ、蔦を操り二人を包み込む繭の様なものを作りあげた。

「わ…卵みたい…キレイ」

ななみが瞳をキラキラとさせている。

「…ななみって案外、度胸が座ってるわよね。怖がりと思ってた」
「お二人はしばらくそこに居てください」

轟音が続く中、岩鬼達はジリジリと近寄ってくる。
見上げると天井からもガラガラと湧き出ている。
岩鬼自体は、朱殷はもちろん、緋や青藍と深藍、烏羽の強さがあればあまり問題にならないのだが、厄介なのはこの数だ。
どれだけ存在するのか、どんどん湧いてくる。
そして、倒した岩鬼はその場に積み重なっていくのだ。
ここもそれなりに広い場所だが、その内に埋め尽くされてしまうだろう。

「皆…!」
「安心して、結芽。僕らは別の空間にいるからね、被害はないよ」

結芽はこの騒動を上から見下ろしている。
主と二人、宙に浮いているのだ。
見回すと、少し離れた所に女の子二人がベッドごと浮いているのが見えた。

「やめてよ、岩鬼を止めて!」
「僕は被害者だよ?皆から攻められてさ。外に出した筈の莉緒とななみ…だった?あの二人まで僕の敵だ」
「……!」
「結芽もあの二人に何か聞いたんでしょ?僕の悪口かな」
「彼女達が被害者よ。あなたは加害者」
「結芽…ひどいなあ。僕と相性が悪い女の子は自由にしてあげただけじゃないか」
「それは自由とは言わない!」

主の表情が氷の様に堅くなり、冷たい眼で結芽を見つめる。
結芽の背筋がヒヤリとした。

「君とは喧嘩したくないなぁ。結芽は死ぬまで手放さないって決めたんだ」




「…キリがないな」

考えなしに攻撃をすれば、周りも崩れて生き埋めになる恐れがあり、中央のスペースを確保出来る程度の技を繰り出しているが、終わりが見えない事が精神的に疲れさせる。

「師匠、いっそ全部吹き飛ばしましょう!」
「良いが…岩山がなくなるな」
「あ、更地になれば男島女島の区別がなくなって良いかも!」
「却下」
『そうじゃ却下!我らが住む所がなくなるではないか』

じゃあどうするの〜と、深藍が愚痴る。

「紅、なにか策はないのか」
『む…岩鬼達の時間を止めてやりたいんじゃが、数が多すぎてな。それにおぬしらも止まってしまう』
「紅は時間を操れるのか」
『まあな。本来は瑠璃と我が揃ってこその力なんじゃが…瑠璃の側に行って目を覚まさせたいのう、歯痒い』

主の手の平からの青い光には、朱殷も気が付いていた。
主は瑠璃玉を、自由自在に隠したり表に出したりとしている様だ。

『奴を一時的にでも怯ませることが出来たら…その隙に瑠璃が出て来てくれるかもしれん』
「あの空間から引きずり出さねば攻撃出来ん」
『結芽も無理じゃろうな…武器もないし…ひ弱そうな奴じゃが一応男』
「結芽……ああ、早くどうにかせねば俺の身がもたん」

朱殷は蹴りを入れて倒した岩鬼を、近くに倒れている鬼の上に、ドオン…と積み重ねた。
数体重ねるとそれに飛び乗り、天井から湧いてくる岩鬼を更に重ねていく。
軽々とやっている様に見えるが、実際はとてつもない重量だろう。

「朱殷!」
「いやぁ、化け物だね。こっちに来るつもりかな?」

身を乗り出し手を伸ばすと、触れることが出来そうなのに。
朱殷と結芽、どちらも同じ想いで手を差し出すが、やはり何かが邪魔をする。

「結芽……くっ、紅は入れないのか?」

見えない膜がありそうな場所に、朱殷はぐいぐいと紅を擦りつけた。
しかし、やはりぐにゃりと弾かれる。

『痛た…こら、ヤケクソになるでない!』
「…朱殷ごめんね、こんな事になって」
「結芽が謝る事ではない。謝るのはそっちの変態だ」
「…変態?」

近付いて来た主が、二人を引き離す様に結芽の身体を後ろから抱き締める。

「ひゃ…っ、離して、」
「いつになったら理解するのかな…ああ、鬼って単純で馬鹿だからね」
「否定はしないがお前程じゃないさ」
「全く、変態だったり馬鹿だったり…失礼な鬼だね」

結芽が主から逃れようと身体を捩るが、主は朱殷に見せつける様に片方の乳房を掴み、股間に手を這わせる。

「汚い手で結芽に触るな」

厳しい表情の朱殷が差し出した手には赤い玉が乗っており、それが赤く光る。
空間は違っても、結芽と主を赤く照らした。

『瑠璃!紅じゃ!しっかりせんか、そんな奴は捨てて出て来い!』
「…何?ソレ」

自分が持つ青い玉と似たものが差し出され、主も興味を持った様子。

「お前も持っているだろう」
「へぇ…これ、対なの…僕にくれるの?」
「馬鹿を言え」
「ああ、何かいつもより手が疼くと思ってたんだ。片割れに反応してるって事?」

結芽の乳房を離し、ゆっくりと開いた手には、紅玉と同じ大きさと球体の、青い光を放つものが乗っている。

『瑠璃!!』

紅の声は、主と結芽には聞こえないが、瑠璃玉には届いているのか、光が強くなった様に見えた。

『そいつの手から離れるんじゃ、空間を戻せ瑠璃!』

光る瑠璃玉を見て、主がふふ…と笑う。

「対のものは一緒にいなくてはね?それ、僕が上手く使ってあげるよ」
「…お前には渡さん」
「緋はもうそっちにあげるからさ」
「結芽も返せ」
「えぇ、酷くない?結芽は駄目だよ、僕のだから」

あげないよ、と、子どもの用な仕草で結芽を抱き締める。
朱殷の眉間の皺が深くなった。

「赤い玉、それだけがこっちに来れる入口を作るからさ」
「結芽と交換だ」
「もう…融通が利かない鬼だね」

朱殷が持っている赤い玉。
主が青い玉で何かを操っているのは分かる。
赤い玉にもそんな力があるのなら、主に渡してはいけない。
なんとかしなくてはと、結芽は考えを巡らせる。

渡さないと言いつつ、わざわざ赤い玉を見せているのは、青い玉を表へ出させる為だろうか。
玉を持たない主は、きっと何も出来ないのだ。
青い玉を手放す様に、何をすれば。

今なら手の平に乗っている。
別に主の気をそらす出来事を。

結芽は突然身を屈め、主の右足大腿部に手の平を当てると、爪を立て思いきり掴んだ。

「……つぅ…っ!!」

突然の痛みに主が声を上げる。
自分を抱いている腕の力が抜けたのを感じ、結芽は主から抜け出す。

「結芽…っ、」

結芽は直ぐさま主に向き直し、体勢を整えると、主の股間に向けて右足を振り上げた。






つづく!

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