09/10の日記

01:15
鬼ごっこ 25(終)
---------------

「結芽、こっち向け」
「ん?ん…んむむ」

顔を横に向け、少し見上げるようにすると、上から朱殷の唇が降ってきた。
結芽のそれに重なり、舌が唇を舐めるのが合図。
少し開いた結芽の口の中に滑り込むと、舌同士が絡まる、くちゅくちゅという音が頭に響いた。
少し斜めに重なっているからか、お互いの唾液が流れ出やすい気がする。

「ん、んん…っ!むっ、」

結芽は暫く誘ってくる熱い舌に没頭していたが、だんだん横を向いた首が痛くなってきた。
後ろから抱く朱殷の腕を叩くと、少しの間の後、ちゅっと音を立てて唇が離れる。

「む…すまん、夢中になった」
「痛た…ふふ、漬物の味した」

今は午前中のお茶の時間。
縁側で、あぐらをかいた朱殷にすっぽり結芽がはまり込む、いつものスタイルだ。
隙あらば、こうして朱殷が口づけをしたり、結芽の胸を揉んだりしてくる。
静かにお茶を飲みたい所だが、狩りや大工仕事、島で問題があれば調べたりと案外忙しい朱殷にとって、結芽との時間は貴重で、その間はベタベタしていたいらしい。
まあ、夜は片時も離れないのだが。


「師匠〜、手紙が届いてますよ!」

緋が手を振りながら庭を走ってくる。
手には筒状に丸められた手紙が握られており、肩には…小鳥がとまっている様に見えるのだが。

「ご両親からです。チィが来てますよ、ホラ」
「久しぶりだな、チィ」

緋の肩に乗った、黄緑色の可愛らしい鳥が、名前の通りにチィ、と鳴いた。
チィは両親が飼っている小鳥で、たまにだがこうして手紙を運んでくれる。

「朱殷のご両親…今はどこに?」
「俺が言うのも何だが、変わった二人でな。他の島を渡り歩いてるんだ…珍しい物を見ることが好きで」
「何て書いてあるんですか?」
「うむ……近い内に帰って来るそうだ」
「えっ!そうなんですか」
「嫁に会いにくるのだろう」
「ひゃ……緊張する」
「気負わなくて良い……が、俺はどれだけ狩りをすれば良いんだ?」

朱殷が大きな溜め息をついた。



館にはまだ空き部屋があり、莉緒とななみも館に住む事になった。
朱殷の館というだけで、他の鬼から身を守れるからだ。

普通の女の子二人が増えた程度なら、食料が急に足りなくなる訳ではない。
朱殷が何故、溜め息をついたかというと、来客が増えた為だ。
来客と言っても、もてなす必要はない客。

「…深藍、何故毎日の様に来る?」
「そりゃあ、弟が帰るのを待ってるから…莉緒の手伝いもあるし」
「男島に帰れば良い。手伝いも別に必要ないだろう、小鬼たちがいる」
「重労働だし、男手が要るかなって」

あはは〜と笑う深藍を吹っ飛ばそうと震える拳を、ぐっと抑える朱殷。

莉緒は畑仕事に興味を持ち、毎日小鬼たちと一緒にせっせと汗を流している。
元の世界にいる頃から、都会のせわしない生活から解放されたいと思っていたらしい。
そんな莉緒を手伝う深藍を、無下に出入り禁止にも出来ないのだ。

「お前まで来る必要はないだろう?」
「ななみに呼ばれましてね」

ニコリと微笑む烏羽の隣には、蔦で出来たソファーに座る、瞳を輝かせているななみが。

「ナナミは烏羽が大好きだね!」
「…蔦芸が、だけどね」

莉緒が苦笑いしながら呟く。
ななみは蔦芸の他に、杏と柑子の所で裁縫を習うことにした様だ。

結芽を心配していた杏と柑子は、無事な姿を見て号泣。
一方で莉緒とななみの美しさと可愛らしさに頬を染め、大興奮で三人分のメイド服制作に取りかかった。

当たり前の様に、食事時になると皆が集合してくる。
更に朱殷の両親が帰ってくるとなると、半端ない量の食材が必要となるのだ。

「深藍……まさか畑仕事だけで済むと思っていないよな?」
「も、も…もちろん狩りも手伝うって〜」

背中に突き刺さる視線に、深藍が固まった。
結芽は緋と一緒に家事をしているのだが、広い館の管理は大変で、掃除や食事の準備に追われる毎日だ。
その日常を心から楽しむ様子や、莉緒とななみに挟まれ、髪をすいてもらう緋の幸せそうな顔を見ると、結芽も自然と笑顔になった。


そんな館での生活が一月程経った頃。

「おお青、無事だったか!」
「…深、なんで泥だらけなんだ?」

朱殷に吹っ飛ばされた、青藍が戻ってきた。
結果的に問題解決に結び付いた事を差し引いても、結芽を拐い危険に晒した事に対しての朱殷の怒りが消える筈がなく。
初めて見る場所まで飛んで行った青藍は、ボロボロになりながら一月かけて館を目指したのだ。

「なんだ、帰ってきたのか。じゃあな」

声を掛けようとした結芽の口を手で塞ぎながら、さらっと一言で済ます朱殷だったが、青藍は再会に瞳を輝かせた。

「こ、これ…土産」

皆の顔に疑問が浮かぶ。
吹っ飛ばされたのに、土産…とは?

「朱殷と…その、結芽に」
「え?」

差し出された青藍の手には、赤い珊瑚のペンダントと、桃色の珊瑚の髪飾りが乗っている。

「わあ…可愛い!」
「俺の手作りだ」
「え、手作り!?」

結芽が驚く様子を見て、青藍が少し威張った様に胸を張った。
皆、更に眉間の皺が増える。
…果たして青藍は何処まで飛んで行ったのだろう。

要らん、と無下に突き返す朱殷をなだめ、結芽がペンダントを朱殷の首にかけた。
不本意と顔に書いてある朱殷が、渋々、結芽の髪に飾りをつける。
桃色の珊瑚をつけ微笑む結芽の姿を見て、朱殷の顔が少し穏やかになった。

「弟よ……」
「懲りない弟君ですねぇ。片想いの相手が増えましたか」

案外器用である事が判明した青藍も、兄と同じく館に通い詰め、食いぶちが増えたのは言うまでもない。




「結芽、冷えるぞ」
「ん…ありがとう」

いつもの縁側で、輝く月に見とれていた結芽に、朱殷が上着をかけた。

「綺麗だね」
「ああ。今夜は邪魔をする雲もないな」

ドスンと座りあぐらをかいた朱殷は、結芽をいつもの様に座らせる。
結芽も朱殷に身体を預けた。

「…幸せすぎる」
「ん?」
「普通は経験出来ないよね」
「何を?」
「鬼ヶ島で生活してるんだよ?」
「まあな。結芽たち三人だけだろう…女の子の迷い込みも減るし」

朱殷が、結芽の頬に口づける。

「でも、朱殷に愛してもらえるのは私だけだよ」
「ああ、そうだな。結芽だけだ」
「ちょっと自慢したい」

ふふふ…と、結芽が笑う。

「皆、知ってるじゃないか」
「そうだけど。嬉しいの」


結芽が身体を捩り、朱殷と向き合い両腕を首にまわす。
お互いに『愛してる』と呟いた後、二人はゆっくりと唇を合わせた。







おわり。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!
長くなりましたが…。もにっきなのに(汗)
色々、ツッコミ所満載ですが、無事に終われて良かったです。
莉緒やななみの、元の世界の事とかも書きたかったんですが。機会があれば。
またお待ちしています!

前へ|次へ

日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ