□虚無感
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「ちょ、何処行くの!ねぇ、ってば!」




名無しさんは、握られた手を振りほどこうかこのままついて行こうか、迷った。その手が、男らしく力強くも、でも、優しかったから。




普段なら「どうでもいいや」と、無気力について行くだろう。けれど、実弥にだけはそんな態度見られたくなかった。なぜだか、そう思った。











「ねぇってば!せめて何処行くのかだけ教えて!怖いから!」




実弥は立ち止まった。そして、手を繋いだまま後ろの名無しさんを見た。

















「俺の家。」










「はぁぁ!??あんた、私を食べる気…?」




実弥の答えに驚いた名無しさんは、目を見開いて大きな声をあげた。そして、少し、少しだけ、不安になって揺れる瞳で実弥を見た。




「はっ。食うわけねェだろ。ただ、…」




「ただ…?」





























「名無しさんに構いたくなっただけだァ。」




ぎゅっと、繋いだ手に力がこめられた。




ふいっと横を向いた実弥だったが、その整った横顔が名無しさんにとっては見惚れる程に格好よかった。




銀色の髪が、夜風に揺れた。



















「…………何で?あんたおかしいよ、こんな私を連れて行くなんて。」




真面目な顔になった名無しさんは、繋がれた手に力を込めて、実弥の手から無理矢理離れた。そして、その横顔に向かって自分の気持ちを素直に伝える。




「………………………」




名無しさんの方に顔を戻した実弥は、悲しそうな目で、名無しさんを見つめた。
























「俺じゃ、ダメかァ……。」



弱々しい小さな声だった。実弥は、離れた手の温もりを思い出し、きゅっと掌を握り締めた。



名無しさんは、さっき自分を助けてくれた実弥の姿を回顧して、頭の中がぐちゃぐちゃになりかけていた。









ーーーー疾風のごとく急に現れて、刀をたった一振りしただけであんなに大きな鬼の首を斬った、…速かった、風が私を包んだ、そして何より、……温かかった……ー












「……………………」




そのまま固まる名無しさんは、どうしたらよいか全く分からなかった。でも、目の前のこの人物のことが、実弥のことが、

























ーーーー好き。ー















「分かった、…それじゃあな。もう鬼に心許すんじゃねェぞォ。」




ひらひらと右手をあげて振りながら、実弥は背中を向けて先に歩いて行った。





































「実弥っ!!!」









突然呼ばれた自分の名前にビクッと肩を揺らした実弥は、ゆっくりと後ろを振り返った。



そして、その人物が走ってきて自分に抱き着いてきたため、少しよろけた。しかし、実弥はしっかりと抱き留めていた。



























驚いて目を見開いた実弥は、自分に抱き着いてきたこの生き物を、抱き留めたまま凝視した。



名無しさんは、抱き着いて実弥の胸に頭をぶつけ埋もれていたが、その顔を上げ目線を合わせて、こう言った。





















「……実弥、私をつれてって?」





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