□分からない
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実弥に手を引かれ、使っていなかった実弥の部屋の隣に通された名無しさん。



その立派すぎる大きな屋敷に先程から圧巻されて、上や左右をキョロキョロと忙しなく見ていた名無しさん。













「というか…何でこんな大きな家なの。一人?じゃないか…家族は?」




「……………………」












"家族"










それは、実弥にとって一番辛く、重い言葉だった。



実弥は眉間に皺を寄せた。黙り込んですぐそこの畳の真ん中を瞬きもせずに見つめていた。













「あっ、ごめん!…ごめんね、話さなくていいから…!」



家庭事情に色々あるのは名無しさんも一緒で、実弥の表情を見ただけで察した名無しさんは、謝ってそれ以上を止めた。












フッと少しだけ笑った実弥は、名無しさんの方を向いた。




「そのうちな、」




そこでようやく手を離した実弥。何故かずーっと繋いでいた。何故だろう。名無しさんにはよく分からなかった。













「風柱様!!」









「なんだァ?そんなに慌てて。」











「昨夜の任務で恋柱様が大怪我を負われたそうで、恋柱様の今夜の任務を風柱様に変えると、先程御館様から通知を司りました!」






「そうか、俺が行くから安心しろォ。」






また突然現れた黒装束の男は、先程の男とは違う人物だった。



それに特に驚きもせず、一つ右手を挙げて答えると、実弥はドカッと畳に腰を下ろした。









「……………………」









去って行った黒装束の男の方を真剣な顔つきで見つめている名無しさん。男の気配が完全に消えると、実弥に視線を移した。名無しさんは実弥の隣に座りながら、その綺麗な実弥の顔を穴が開くほどに見つめた。






「そんなに見られたら穴が開くだろぉ。」



笑みを零して名無しさんの方を向いた実弥は、胡座をかいた右脚に右肘をついて、掌に顎を乗せていた。切れ長の瞳が、名無しさんを見つめる。










「あの、あ、あのさ、……」



実弥は男前の部類に入る。そんな相手にジッと見つめられては、たまったもんじゃない。名無しさんは恥ずかしくて瞬きの回数が増えていたが、実弥と向き合って言葉を発した。




「あ?」












「風柱って、何…?実弥、何者なの、?何か強い人…?」



少しだけ不安そうに縮こまって、上目遣いで実弥を見つめる名無しさん。




「あー…………、」




実弥はどう答えればよいか分からず、言葉を濁らせた。




「俺は、俺だ。実弥だ。風柱ってのは、まぁ…肩書きみたいなもんだァ。別にたいしたもんじゃねぇ。ただの鬼狩りだ。」




真剣に実弥の言葉を聞いていた名無しさんだが、どこか引っ掛かって首をかしげた。




「…何で鬼狩りをやってるの?」




「……お前、突っ込んでくるなぁ。」




「あ!ごめん!聞かない!ごめん!…その、………実弥ともっと仲良くなったら、…に、する。」




恥ずかしくて声をだんだん小さくして下を向いて黙り込んでしまった名無しさん。そんな名無しさんを見て、実弥は優しい表情になった。




「まァ、すぐに分かるだろぉけどな。」




「えっ?」




顔を上げた名無しさんの視線の先には、先程までこちらを向いていたはずの実弥の横顔が写った。実弥は、何か考えるように遠くを見ていた。





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