□なりたい
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ゆらゆらゆら。











ふわふわふわ。













深い海の中に沈んで泳いでいる感じ…。







んー…。何だか、頭が痛いな。それに、目蓋も重い。










きっと今の私は、醜い姿なんだろうな。












あれ?でも、温かい。海って、こんなに温かいっけ?違うよね。何でだろう?



それに、優しい音が聞こえる…。ずっと聞いていたいな。










あぁ、身も心も、全部温かいな……。

















ゆっくりと目蓋を開ければ、目の前に実弥の顔があった。



泣き疲れたのか、驚いたけれど飛び起きはしなかった。



ーーーーあぁ、温かかったのは、実弥が抱き締めていてくれていたからか…ー





















ーーーーん?待てよ。"実弥"って、誰だっけ?本当に、居る人だっけ?分からないや…ー














「…目ぇ覚めたか。」







実弥は、自分の左腕に名無しさんの頭を乗せ、右手で頭を撫でながら、名無しさんの顔をずっと見ていた。




意識を失った名無しさんを瞬時に抱き留め、近くで護衛をしている隠を呼んで布団を敷かせた。




「…………………………」













ーーーー誰だっけ、この人…、………実弥?ー








曖昧な記憶の中で、まだゆらゆらと海の中を泳いでいる感覚の名無しさんの左頬を、実弥の指が撫でてきた。








ーーーー温かいなぁ…。今って私、起きてるの……?でも、また眠くなってきちゃった…。ー









ゆっくりと目蓋を動かしていた名無しさんが再び目を閉じると、前から、心地良い柔らかな声が聞こえてきた。




「また寝るのかよォ。」


















だんだんと輪郭をはっきりとさせていく記憶。名無しさんは、重い目蓋を一生懸命開けて、声の主と視線を交えた。









「さね…み………、」




「何だ?」













意識もしていないのにどうしても溢れてくる涙が、ポロポロと頬を伝って落ちていく。実弥の腕を、濡らしてはいけないと、思うのに、思うのに、。











「泣いていいぞ。その代わり、俺の腕の中でだけなぁ。」




自分の身体を抱き締めている実弥の腕に、力がこもったのが分かった。顔が近付いてきて、額をコツンと合わせられた。












ーーーーあぁ、なんだろう。まるで、春の昼下がりの太陽のような、ポカポカとした温かい気分だ…ー










名無しさんは、無意識に、自分からも実弥の方へ擦り寄っていった。もう、額どころか鼻までくっつきそうな距離だ。

















「…………………実弥?ちゃんと、居る?私の前に、ちゃんと、居るよね??」




「居るってばよォ。名無しさんを抱き締めていいのは俺しか居ねぇだろがぁ。」







ーーーーやっぱり、陽だまりのようだ。太陽かな、この人。柔らかい…笑顔。ー












「実弥……、」




「ぁ?」

















「…すき。」










起きているけれど、まだ海の中のような狭間で揺れる名無しさんの口から出たのは、真っ直ぐな気持ちだった。




実弥は、目を見開いて、名無しさんを見た。



けれど、すぐに、自信あり気ないつもの表情に戻った。














「当たり前だ。そうなるって、決まってたんだからよォ。」








ーーーーなんだろう…唇に柔らかい温かなものが触れた。そんなに何回もくっついて…離れて…くっついて…。………あ、やだ、離れて行かないで!ー










ハッ









名無しさんは、元々大きくて丸い目を更に大きく見開いて実弥を見た。




く、口付け……???




これ、口付けで間違いないよね?初めてだから分からないけれど…たぶん、きっと、そうだ。













ーーーー好きな人との口付けって、こんなに幸せなんだ。ー












「実弥。」




「ん?」





















「もっといっぱいちょうだい?実弥を、ちょうだい?くれる…?欲張りかな、私……、」












空耳かと思った。














「いくらでもやるよ。絶対ぇ離さねえから、覚悟しろよ。」








再び、唇同士がくっついた。今度は、熱く。






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