□枯れた
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名無しさんは、実弥の背中が見えなくなるまで、その姿を見ていた。





ーーーー『殺』ってどこから来たんだろう…。いや、実弥らしいけど。ー




実弥の背中の文字の意味を名無しさんなりに考えてみる。あれはきっと、俺が鬼を殲滅する、と、言っていた実弥の決意の現れたなんだろうと名無しさんは思った。『殺』って、直球すぎて、真っ直ぐな実弥の性格の形すぎて、なんだか少し笑ってしまった。

















「実弥、いつ帰ってくるんだろう………。」




名無しさんは、家の中に戻ってきて、ふと、思った。




せっかく気持ちが通じ合ったのに、実弥は、風柱は、たくさんの人を守るのに命をかけているんだなと、切なくなった。




ーーーー実弥…、いつか、死んだりしないよね…?ー




いやいや、とブンブン頭を横に振って、その邪念を吹き飛ばそうとする名無しさん。















ーーーー私…、…いつまで此処に居ていいんだろう…?ー








名無しさんは、頭を振ったことで、急に今の状況を思い出して、独り言を呟いてしまった。そして、下を向いて暫く考えた。



















名無しさんは、自分の部屋へと歩き出した。





















実弥に、手紙を、書いた。




せっかく上手な文字で書けたのに、ポタポタと涙を落としてしまい、所々滲んでしまった。















名無しさんは、書き終えた手紙を机の上に置くと、立ち上がった。




そして、少しだけれど、好きに使っていいと言われて、本当に自由に使わせてもらって過ごしたこの部屋を見渡した。元々綺麗好きな名無しさんがまめに掃除をしていたから、来た時となんら変わりはない部屋。




襖を開けて、隣の部屋も、見た。




実弥の、部屋。たくさんの思いが詰まった、この部屋。初めて口付けを交わした部屋。幸せを教えてもらった、部屋。



実弥の、匂いがした…。




















「お世話になりました。」




外門を出て屋敷の方へ一つ頭を下げた。











名無しさんは、歩き出した。

























「ただいまァ。」










招集は案外長かった。もうすっかり夕暮れ時じゃねェか、腹減った。



名無しさんは、何してたんだァ?
















「名無しさん、開けっぞォ。」
















「…………………」




そこは、もぬけの殻だった。人の気配が消えていた。柱なら、それくらい集中すれば分かる。











「は……………?」



実弥は、わけが分からなかった。部屋の中に入って、綺麗に片付いている家具や寝具を、見た。



壁につけている机の上に、白い紙が置いてあることに気付いた。実弥は、すぐさまその紙を開いた。












実弥へ。

本当に、本当に、今までありがとう。

短い間だったけれど、私は心の底から幸せでした。

絶対に、死なないでね。実弥の強くてかっこいい力で、剣で、これからもたくさんの人を守ってね。

助けてくれてありがとう。抱き締めてくれてありがとう。

愛してくれて、ありがとう。





あなたを、永遠に、愛しています。

名無しさんより。













実弥は、紙を握り締めてすぐさま走り出した。





もう、不格好で誰かに笑われようとどうでもいい。

もう、肺が痛みどれだけ息が切れようと関係ない。

もう、男のくせにと言われようがなんだろうが、愛する人のために何かを犠牲にするのも構わない。





































ーーーーあぁ、何でだろう。もはや笑えるなぁ。私、何か悪いことしたかな?ー
















「お前、うまそうな匂いがする。稀血だなぁ?」







『稀血』







実弥が、自分は稀血だと言っていた。私も、そうなの?一緒だね。何か、嬉しい。稀血って何だかよく分からないけれど、鬼にとってはうまそうなんだね。そう考えたら嬉しくはないな。



…もう鬼は懲り懲りだよ。私も、実弥に剣を習えばよかったなぁ…。









名無しさんは、居候という身に申し訳なさを感じた。自分は、あんなに強くて素敵な人とは釣り合わないと気付いた。実弥とは、格が違いすぎる、自分は自分の生活に戻ろうと。

『愛』を教えてくれて、ありがとうと。





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