□答えは
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前を向いた実弥は、ふぅ、と短い息を吐いた。顔が険しくなった。


















「何で出て行った…?」













「…………………、」









きた。聞かれるはずだよね。名無しさんは、何と言えばちゃんと伝わるのか、一生懸命考えていた。





















「実弥は、鬼殺隊で、風柱で、…私は一般人で。私は、実弥のために何もしてあげられるものがないの。一つも、ないの…。」









「……………」









「実弥は、剣が使えて、怪我の処置も出来て。でも、私は農業くらいしか出来なくて、何の取り柄も無い。あまりにも違いすぎるっ…。」









「……………………」









「実弥は、あんな立派な御屋敷に住んでいて、私は居候で、居ていいはずが無いの。理由が、無いの。」








「……………………」








「実弥は、こんな空っぽな私に好きって言ってくれて…っ、でも、私にはッ
…実弥を愛する資格がっ…」「それで全部か。」




名無しさんの言葉に声を重ねて立ち止まった実弥は、月光を背中に受けていて、その姿は神秘的であまりにも美しかった。名無しさんは、引いてきていた涙をまたいっぱい目に溜めて、実弥の表情がよく見えない。でも、実弥と
名無しさんは、真っ直ぐに見つめ合っていた。












「まだあるっ…」



「名無しさんは、此処に居るだろうが。今、俺の目の前に、居るだろうがァ。ちゃんと存在してんだよ。」



「……?」



「名無しさんは、俺を何だと思ってる、神か?仏か?違ぇぞ、俺は、ただの人間だ。名無しさんと同じ、人間だ。同じ刻を生きてんだ。」



「うん、…」




「名無しさんは自分を卑下しすぎだ。…あれだ、どんなに辛い境遇でもそいつらを憎みはしなかった。どこの誰か分からねぇのにその誰かを守ろうとした。強くて優しい心を持ってんだから、こんなに透き通るような綺麗な目してんだろがァ。」



実弥は、名無しさんの頬に手を伸ばすと、ふわっと包み込んだ。



そして、微笑んだ。



「名無しさんは、望まれて生まれてきたんだ。当たり前に生きてていいんだ。幸せになるために、俺の隣に居んだ。」




「っ、…………」




「俺が、この手で名無しさんを幸せにする。死ぬまで離さねぇから覚悟しろよォ。」

















「どうして…どうしてそこまで言ってくれるの…?」



「あ?好きだからに決まってんだろォ。」






















「………………………」








「…は?何で黙り込む?」












未だに分からない名無しさん。



何故、知り合ったばかりの自分に笑顔をくれるのか。
何故、黒い過去と事実を優しさで包み込んでくれたのか。
何故、沢山居る素敵な女性の中にも入っていない自分を選んでくれたのか。



何故、こんなにも自分のことを愛してくれるのか…。



何故、何故、……













名無しさんは、眉間に皺が寄っていた。






「コレ、……」




「え?」




「コレに書いてる"愛してる"は、どういう意味だ。」



「…………………」



くしゃくしゃになった名無しさんからの手紙。刀を握る時も、左手で大切に握っていた。



実弥も、眉間に皺が寄った。








ーーーーー分からなくなってきたよ…。ー


















「……実弥。」



「何だ。」














「ごめん、少し考えさせて。」








名無しさんは、記憶にある中では、生まれて初めてこんなにも誰かに愛された。守られた。優しくされた。



だから、分からなかった。知らないから、怖かった。嬉しいのに、素直に喜べなかった。



幸せになる自分を、どうしても認められなかった。
















「分かった。待つ。」









真面目な顔になった実弥。その瞳は真っ直ぐすぎて、名無しさんには痛かった…。












繋いでいた手を、実弥は離した。













名無しさんに、嫌な思いをさせたくなかったから。







もし、自分が嫌われていたら?自分のことを好きではなかったら?言われるがままついてきてくれているのだとしたら?



















二人は、苦しい恋を、していた。





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