□仲間
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「…不死川さんは、名無しさんさんにとって、どんな人ですか?」



「え、えーっと…、」



胡蝶は、軟膏を塗り終わった名無しさんの腕に、包帯を巻き始めた。



名無しさんは、胡蝶の問いに、すぐに答えられずに目を泳がせた。

















「え、と……三回も助けてもらったんです。命の恩人です。あと、こんな何も無い空っぽな私を、拾ってくれました。私、…ちょっと家庭が複雑で…、でも、実弥はそれも全部、受け止めてくれました。あと…」



「ふふっ。」




「?」




「たくさんあるのですね。それでそれで?」




「…あと、…………な…何か、何ででしょうか?一目惚れって言われたんです。それで、手をたくさん繋いでくれて…いつも温かいんです。…実弥、そんな風に見えないんですけれど…。胡蝶さん、どう思われます?」



「……ふ、ふふっ…ふ」



胡蝶は、笑いを堪えるのに必死だった。あの、不死川が、惚れた一人の女性にこんなに優しくなっているなんて。鬼殺隊の誰にも想像出来ないだろう。



「え?胡蝶さん…?」



「あぁ、ごめんなさい。あの不死川さんが、こんなに変わるものなのですね。色々と、びっくりして。」



包帯を巻き終えて腕全体を確認したあと、胡蝶は柔らかい目で名無しさんを見上げた。



「そんなに、変わったんですか?私、今の実弥しか知らなくて…」



しゅん、と寂しそうに下を向いた名無しさんの手を、胡蝶は両手で優しく握り締めた。



「名無しさんさん。」



「はい?」



「不死川さんは、とても真っ直ぐな方です。鬼に対しては、それはもう直球勝負です。殺すの一択で。その根っこにあるのが、ご家族の死だと思います。だから、"守りたい"って気持ちが強いんでしょうね。」



「………………」



「誰かを守るためなら、自分を犠牲にすることも厭わない人です。あんなに傷があるのも、彼のその生き様の現れでしょう。」



「そうですか、…」



「さあ、不死川さんが待っていますよ!縁側に行きましょう。」



「あ、はい!」



名無しさんは、今まで握られていた自分の両手に感じた胡蝶の温もりは、実弥とはまた違った温かさだなと、嬉しくなった。



二人で処置室を出て、実弥が居るであろう、縁側へと向かった。












そこに広がる光景は、目を疑うものだった。













くぅ〜ん






「お前、腹減ったのか?生憎、俺は今何も持っ…」



「う、……………あははは!」



胡蝶は、ついに噴き出してしまった。



実弥が犬と戯れていたのだ。



「胡蝶!笑うんじゃ無ェ!コイツが勝手に寄ってきただけだっ!」



「………………」



名無しさんは、恥ずかしそうに必死に弁解している実弥にキュンとして、心臓を掴まれたような苦しさを感じた。



ーーーー犬に寄ってこられる実弥……。愛おしいな……。あ…、ー



ハッとした。改めて自分の気持ちに気付いた名無しさん。相変わらず胡蝶が笑って色々言っているその二人の姿を、少し遠くから見ていた。



「胡蝶、処置は終わったのかァ?」



「はいっ、終わりましたッふふっ」



「何なんだよォ…たくっ、」



笑いが止まらない胡蝶を軽く流して、突っ立ったままの名無しさんの所まで実弥は歩いてきた。



「名無しさん、帰るとすっかァ。」



「うん。」



一通り笑った胡蝶も、二人の元へやって来た。三人で玄関まで歩く。胡蝶は、急に静かになったかと思ったら、真剣な顔をして玄関で立ち止まった。二人に向き合う。



「名無しさんさん、不死川さん。」



「なんだァ。」
「?」



「はっきり言いますが、名無しさんさんの傷は相当深くて広範囲に渡っています。痕が残る事は間違いないでしょう。」



「「…………………」」



ーーーー何となく予想はしていた。これが、痕形も無く消えるなんて、逆に凄いとすら思えるもん。ー



あまり驚かなかった名無しさんと、悔しそうに顔を歪める実弥。



「それと、名無しさんさん。これから暫くは、毎日、消毒と包帯の交換に来ていただかなければなりませんが、大丈夫ですか?」



「え、あ、こんなによくしていただいたのに!これ以上は!」



頭をブンブンと左右に振って遠慮を示す名無しさんに、胡蝶は笑った。



「何を言っているんですか。仲間の治療は当然の事です。」



笑顔を浮かべた胡蝶に、名無しさんは泣きそうになった。





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