□記憶の中の
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「実弥、」



「なんだァ。」



「もっと…!もっと、ちょうだい…?もっと、実弥が、…欲しいっ!」



ねぇ、と、さっきからグイグイ引っ張られている自分の羽織り。それよりも何よりも、名無しさんの口から飛び出てくる台詞に、実弥は眩暈がした。








「おま、…人がどんだけ我慢してんのか知らねェだろ」



一瞬目を見開いた実弥だが、すぐに苦しそうに眉間に皺を寄せて溜息を吐いた。



「…なんだかよく分からないけれど…我慢、しないで?実弥、すっごく苦しそうな顔してるっ…」



名無しさんも眉間に皺を寄せて実弥と目を合わせた。



「……………………」



よく考えてみる実弥。果たして、名無しさんにそういった知識はあるのか。



「名無しさんは、夜の営みの事、どれくらい知ってる?」



「よる??」



全く意味が分からなくて頭を傾ける名無しさん。いや、何となく予想はしていたが。



「あー…。…男女が、身体を重ねて愛し合うことだ。」



自分で言っていて恥ずかしくなった実弥は、目を逸らす。しかし、次に名無しさんから出た言葉は、思いもよらない言葉だった。



「………………………それって、変な声、出る?気持ちいい…?」



「はっ!?」



「ねぇ、合ってるの合ってないの?どっち?」



「…合ってる。」



まるで何事もないように淡々と言葉を連ねていく名無しさんに、開いた口が塞がらない実弥。名無しさんから目が離せない。



「……………たぶん、私、それ知ってる。」



「………………何処で知った、」













「お父さんとお母さんが………あの…、…お母さん、変な声出してて、「きもちいい」って言ってて…、何回か見たこと…きっとあれなら、ある、…」



「……………………あー、」



なるほど、と実弥は妙に納得した。あの自分達だけ仲睦まじい夫婦なら、場所も人も何も厭わないだろう。



しかし、どうしたものか。名無しさんがそれを知っていたとして、自分もしようと思うだろうか。たぶん、嫌がる。見たのがあの両親なら。憧れは、しないだろう。



実弥は考えた。







「なァ、名無しさん…」



「ん?」



可愛らしく首を傾けて自分を見てくる名無しさんに、どう言えばいいのか迷って、迷って…とりあえずギュッと抱き締めた。そして、顔を見ながら様子を伺った。



「俺が、名無しさんと、それしたいって言ったら、…どうする。」



「え……?」



「あー、っと、まぐわいって言うんだ、その、男女の営み。」



「まぐわい、」



「そうだァ。ようするに、願わくばだが、子どももそうやって作る。子作りだなァ。」



「………実弥、…私との子が欲しいの…?」



「ちょ、待て待て!行き過ぎだ!」



幼子のような清廉潔白な澄んだ瞳を実弥に向けている名無しさんは、本当に知らなかった。詳しく説明しすぎたと慌てる実弥を、相変わらず可愛らしく首を傾けて見つめている名無しさん。



「そっか、実弥は、…欲しくないんだね…そっか、…」



「え?」



頭に耳がついているならば下を向いているだろう、しゅんと落ち込む名無しさんに、固まってパチパチと瞬きする実弥。



「いや、欲しくねぇとは言ってねェぞ。」



「じゃぁ…!」



「だーかーらー!話が飛び過ぎだっつの!まずは、愛し合ってからだ。そして、結婚してからだ。子作りはそれからだろがァ。順番が違ェ。」



「順番…」



純粋すぎる。無垢すぎる。自分が穢れを教えてしまったようで、後悔する実弥。



「実弥。」



モジモジと恥ずかしそうに目線を下に向けた名無しさんの言葉は、実弥の理性を決壊させるのには簡単だった。



「えと、…実弥がしたいなら、私もしたいな。いつも一緒がいいもん!もう、離れるのは嫌!だから、その…、まぐわい??しよ?」










「………………………」



何て事を言ったんだ、この娘は。実弥はその猫目を見開いて名無しさんを凝視した。



頭では止まれと思っていても、身体は本能のままに動いていた。



実弥は、名無しさんの右手を引っ張り上げ、襖を開けて自室に入った。日輪刀を乱暴に畳に置いた。



布団を敷いて、そこに名無しさんを寝かせると、上から覆いかぶさった。



「いいか、名無しさん。嫌だったらすぐに言うんだぞ。」



実弥は、揺れる瞳の中に名無しさんの女らしい意志を見た。





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