バレンタイン クリスマス小説 

□mischief or  Oath
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「あ、あの…飛影は」
「もうすぐ戻る、飛影の部屋で待てば良い」
口の端をあげ、躯は優しげに蔵馬を見下ろした。
春の穏やかさのように小さく笑い、躯が蔵馬を柔らかく見つめた。

「…あの」
今までとは違う微笑みが、落ち着かない何かを、強く沸かせていく。
「どうした、会っていかないのか」
「……いえ」
そうだろ、とからかうように、躯が足を速めた。

広い百足の廊下を、やけに暖かい空気を醸し、躯は蔵馬を引っ張って進んでいく。

「…今日は夕方までには戻る、待っていれば良い、何か届けさせるか、紅茶でも」
「…いえ…」
不思議なぞわっとした感覚に、もう一度冷や汗が流れた。
くすっと笑うその笑顔は本当に絵画のようで…なのに見慣れないもので。

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「ゆっくりしていけ」

飛影の部屋の扉に手を掛け、躯が小さく言った。
「せっかく来たんだから」
「えっ…」
不意に、蔵馬は躯を見つめた。悪戯のような瞳で、躯は重厚な扉を回した。
「わざわざ薬まで頼んで悪かったな」
そう言って、扉を閉め、躯は背を向けた。
その背中を見つめ蔵馬は黙った。


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