バレンタイン クリスマス小説 

□mischief or  Oath
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「…蔵馬」
気付かなかった。後ろの、気配に。
カチャ、と言う音と同時に、その人が立っていた。
「…飛影」

凝固したようにベッドに座ったまま、蔵馬は振り向いた。
荒い地を蹴って走り続けた、闘う者の粗雑な空気を、飛影が纏っていた。

部屋を見渡し、蔵馬を見る。その瞳が、鋭さを消した。

「…来ていたのか」
「躯に…薬を頼まれて…届けに…」
そうか、とだけ飛影が言った。
しばらく逢えなかったその人の強い妖気が、じわじわと身体中を包む。
飛び出して行きそうな気持ちが胸に落ちた。
冷たさを醸すと言われるその瞳が、そうとは思えぬほど温もりを宿して蔵馬を見ていた。
「あ、の…」
そっと蔵馬はベッドの脇に視線を移した。

「何ですか、これ…」
ゆっくり、蔵馬はそれを指さした。

・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥

それは、小さなフェルト生地のぬいぐるみだった。
蔵馬の形の…。行儀良く、ベッドの窓脇に座っている…。

「…あいつが、拾ってきた」
それを見ずに、床を見て、飛影が呟いた。
「…躯…が」
ぬいぐるみには触れず、蔵馬が問いかけた。
「魔界のどこかで拾ってきたとか言いやがった」
「なに、それ…」
固まった蔵馬の頭に浮かぶのは、あの時の躯の無邪気な笑顔。
本当に絵画のように美しく、笑みを湛えていた躯。
ゆっくりしていけ…とは…。
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