14+41=55!!!

□20.※蛭円(ss)
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―別に、愛してなんかいない。

例えば俺の躯を捉える手とか頬にあたる金髪とか、降ってくる獣みたいな息遣いとか。ただただ俺を冷やして苦しませるだけで、大切で幸せで愛おしい―そんな感情とは程遠いし、そんなキレイなものでもない。

ただ、あの真っ直ぐな眼になら、溺れてもいいかなって、そう、思っただけで。




「…っん、」
頬にまで裂ける常人よりも大きな口が、俺の首筋を吸う。所有痕でもつけたのだろうと想像して、思わず眉根を寄せた。
そんな様子を咎めるように、ヒル魔はすぐさま俺の頭をぐっと引き寄せて、噛みつくように口づける。喰われている気分だ。


「んんっ…は…っ、」
ヒル魔のざらりとした舌がひたすらに口内を弄る。歯列をなぞって舌裏を舐めとり、またゆっくりと絡めて。よくもこんなに動くものだ。

「…おい」
「なに?」
「てめェ喧嘩売ってんのか」
「…は、まさか」
「…なら、どこ見てやがる」


―どこって、俺とあんたの二人しか居ないこの部屋で、しかもお取り込み真っ最中で、こいつは何を言っている?俺に、どうして欲しいと?

「…んな、あんた以外誰見ろっちゅう―」
「見てねぇから言ってんだろ」


言い切る前に、ヒル魔のいつもより低い声が、言葉を遮る。
ふと眼前にある顔を見上げると、酷く冷たい色をした眼が俺を捉えていた。あれ、こんな色してたっけ。もっといつもは真っ直ぐで熱くて眩しいはずなのに―。






「…てめェは、何でここにいる」
「何で、って、あんたとこういうコトするためでしょ」
「だったら、ちゃんと、俺を見てろ」
「ほら、恥ずかしくって、」
「…普段なら、煩ぇくらいに喘ぐだろ」
「じゃあそうしよっか?あんあんって―」

「…っいい加減にしやがれ!」
「――っ…!」

途端、ヒル魔の細くて骨ばった手がぎゅう、と先程まで吸い付いていた俺の首を絞めた。呼吸が、止まる。

「…な、に……っ」
声が掠れた。喉の奥が渇いて、ひとりでに疼く。今まで何も欲しがらなかった体が、酸素と潤いを必死に求める。





「…てめェは、俺を何だと思ってやがる」

低く低く、ヒル魔が唸る。その眼からはいつのまにか冷たさが消えていて、代わりに強い眼差しはそのまま、不安定に揺らいでいた。





ぐぐ。少しずつ、力がこもる。


「ぐ、ぁ…!かはっ……」

何だと思ってる?だなんて。滑稽すぎて笑ってしまう。
こいつは泥門のQBで文字通り悪魔みたいな奴で。しかも狡猾で鋭くて俺様で、絶対に他人の指図なんか受けなくて。勝ちが全てで、その為なら何だってやって。
独りよがりのはずなのに色んな奴に理解されてて、同じくらい愛されてて。簡単には振り向かないくせに――どうでもいいくせに、人の中んトコに簡単に入り込んできて。逆にこっちが入り込めたと思っても途端にすり抜けて、俺なんかじゃわからないところへすうっと消えてしまう。

いくら欲しても欲しても欲しても。俺じゃ、どうやったって捕まえられなくて、それで、それで。





また少し、力が入った気がした。

―ああ、なんか、こんなのでもいいかな。
俺は、だんだんとぼやけてくる意識の中でそんなことを思った。別に、あんたなんか愛してないけど、これでもいいかもしれない。あの眼に捉われたまま、いつまで経ったってどう変わるわけでもないこんな関係を続けるより、ずっといい。

そう思い至って、俺は、ゆらりと腕を持ち上げる。何とか、届いた。何だと思ってる?だなんて―、

「…きれい、な、めの、やつ、だ、なあ、って――」


掠れに掠れた声でそれだけ言って、ゆっくりと笑う。力ない指で、目の前の瞼を薄くなぞった。ああ、これでいい。

一気に視界が歪んで、脳が考えることを止めた。意識を手放す直前に見えたのは、俺が焦がれに焦がれた眼とは違う、酷く揺らいだ、こいつらしくない眼だった。



















20.
An eager
and two minds




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