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□星屑マリネ
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「おいハルヒ。お前、今日は大人しいな。」

朝っぱらからシトシトと降り注ぐ雨を横目に、これまた朝っぱらから不満そうに頬杖を付く奴に俺は言った。

「今日はって何よ、今日はって。私はいつでも、人並み以上の常識と器を持ち合わせながら一般的な見解に見合う行動と生活を行ってるわよ。」

全く、何だってコイツは…
いつも以上に不機嫌なオーラを醸し出すハルヒに肩を竦めた。
…おっと、古泉の十八番を真似たわけじゃない、断じて違うぞ、敢えて言おう。
まぁそんな注意書きなんぞ放っておいて、だ。
俺の家のカレンダーとアホ谷口の朝飯の献立(七色素麺だったそうだ)が正しければ、今日は7月7日。
―…“あの”七夕だ。
俺が3年前にジョン=スミスとして、この涼宮ハルヒの目の前に初めて姿を現した日。
俺にとっては記憶に新しいが、ハルヒ自身にとってはもう3年も前の出来事だ。
それなのに今だ七夕を特別な日と認識してくれているハルヒに、ほんの少しばかりの好感を抱いたんだがしかし。
今年はどうだろう、かつてのメランコリー状態を彷彿とさせる程のローテンションだ。


「さいで。…で?今年はやらないのか、七夕祭り。」

俺の言葉にピクリと微かに反応を見せたが、溜め息を吐いて持っていたペンをクルクルと回し始めた。

「なーんかね、ノらないのよ。今年の七夕は。だから部活もナシ、ね。」

思わぬ爆弾投下の瞬間であった。
毎度毎度、しつこいと言っていい程どうでもいい行事に精を出してはあの愛らしい朝比奈さんを餌に金をせしめ、時には長門や古泉も駆り出して何かしらのハプニングを起こしていたあのハルヒが。
ノれないと!
それならまだしも、行事に対して年中無休のSOS団自体を休みにすると!
いやまてまてこれはアレか、嵐の前の何とやらだな、うんきっとそうだ!!
2月14日に行われた、ハルヒならではの陰謀のように!

「ホント…なんで今日に限って降ってんのかしらねー。」

窓の外に広がる暗雲を見上げながらハルヒは再び溜め息。
ハルヒのこんなメランコリックな溜め息、そうそう聞けるモノでもない。
内心俺は焦りながらも口調に出さずに会話を続けた。

「降ってるって、雨のことか?」
「雨以外に何が降るって言うのよ、槍?」


相変わらずの憎まれ口だが、本当に槍が降りそうなほど珍しいダウナーなオーラに気圧される。

「雨が降ってる七夕なんて最低だわ…」

あれからずっと回し続けていたペンを机に放ると、ズズッと突っ伏した。
一体全体、何だってんだ。

「おいハル「ちぃ〜っす。お早うさん、キョン。」

メランコリーの原因を探るべくハルヒに話かけようかと再び口を開いたら、何とも言えぬタイミングで谷口登場。
と言うか、さっきも挨拶しただろ。

「そうだっけか?まぁいい、お前今日の放課後空いてるか?」
「放課後?一体なんでまた。」

谷口の言葉にも俺の言葉にも、突っ伏したままハルヒは無反応。
何なんだよ、本当にさ。

「いやな、地元の商店街で七夕祭りをやるんだが、俺と国木田とお前の3人で行かないか?」
「誘いは嬉しいがな、何が悲しくて男3人で祭りなんぞに行かねばならん。第一、お前この前彼女と行くって言ってただろ。」

俺の発言に谷口は傷を抉られたような顔を見せて跪いた。
コイツ、将来舞台俳優を狙うべきじゃないか?


「駄目だよ、キョン。谷口、またフラれちゃったんだ。」
「またって言うな!」
「なんだお前、またフラれたのか。」
「だからまたって言うな!!」

まるで酔っ払いを相手にしている気分だ、足下に谷口で前に国木田、逃げられない。

「お前はいいよなぁ!朝比奈さんに長門さんっつう可愛らしい方々と七夕を過ごせるんだからな!!」
「七夕ってのはそんなに女と過ごすべき行事なのか?」

というかお前、今さり気なくハルヒ抜いただろ。
チラリとハルヒ見やると、ハルヒは突っ伏したままだった。
止めてくれ、こっちまでメランコリーになっちまう。
ただでさえこっちは、放課後に朝比奈さんとそのお茶に会えないと思うだけで暴れ出したいくらいだというのに。
…いや、待てよ。
ハルヒのメランコリーの原因を調べつつも、朝比奈さんとそのお茶に会えるという効果的な作戦を閃いたぞ!
それは―…

「頼むよキョン!俺今日は彼女と遊ぶから遅くなる、晩飯もいらねぇやって親に言っちまったんだよ!!な?俺たちの仲だろ?」

今だ懇願を続ける谷口には悪いが、一度閃いてしまっては後には引けなかった。
…単純な作戦だ、部活動をすればいいだけだ。

「…生憎だが今日は部活があるのでな、辞退させてくれ。朝比奈さんの熱くて美味いお茶を嗜みつつの部活が、な。」
「裏切り者ぉぉぉぉぉぉ!!」
「まぁまぁ谷口、僕が行ってあげるからさ。」
「くっ…さすが国木田だぜ…」

俺はそんな2人を見ながら心の中で謝罪した、何故なら…まぁ、この通り俺は嘘を吐いている。
ハルヒも勿論気が付いた、なにせ俺が部活を理由に谷口の誘い断った時点で頑なに上げようとしなかった顔が上がっていたしな。
拒否の理由としては本当に面倒臭いやら、朝比奈さんとそのお茶が恋しいやらも挙げられるが、やっぱり一番はハルヒのダウナーなテンションの原因捜索である。
放っておいてまた世界規模の閉鎖空間を作り上げれちゃ堪らないんでね。






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