短編
□どうか壊れないで
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チョロチョロと目の前を走る黒紫色をした小さい物体。
俺はベッドに座り無意識にそれを目で追いかけていた。
珍しいスミレ色をした目。同じくスミレ色をした先がクルッとした髪。彼女が部屋を走り回るたびにその髪がフワフワと揺れる。
「コロナ…」
俺が呼ぶと今まで世話しなく走り回っていた彼女が足をとめこっちを見た。
「ほ?どうかしましたか?」
「…ちょっと来い」
頭に「?」を浮かべながらもトコトコと俺の所にコロナは来た。
そして俺はコロナの細い肩を引っ張った。
ギュッ…
「レ、レニィさん!?」
「…………」
俺はコロナの小さな体を抱きしめたまま後ろのベッドに倒れこんだ。
コロナは始めは驚いて離れようと俺の胸板を押していたが俺が強く抱きしめたら何かを感じとったのか静かになった。
「(……なぁ、コロナ。俺は怖いんだ)」
いつか別れがくるのは分かってる。
何故なら人には寿命というものが誰にでもあるから。俺は別に神なんてものを信じていないが、もしいるなら神様とやらに決められた事だから仕方がない。凄い魔術師なら何百年でも生きられるかもしれないがあいにく俺は魔術師ではない。コロナは魔術師だがきっと何百年生きるのは無理だろう。
…違う。
「(そうじゃない)」
そんな事言いたいんじゃない。
コロナは魔術師の師匠によって身体をめちゃくちゃにされた。特殊な薬物がないといつ壊れてもおかしくない。
「(俺はお前を失いたくないんだ)」
きっとこんな事を言ったらコロナは怒るだろう。そしてお前は次にこう言うだろう。
コロ…、わたしはそんなに弱くありません!そう簡単にレニィさんの傍を離れたりしませんから!!
それでも
〔怖いんだ。なによりもお前を失う事だけは〕
(ただ俺は小さな彼女を強く強く抱きしめた。俺の腕から届かない場所に行かないようにと願いを込めながら−−)