故に赤き大地を蝶は舞う
□02 蒼烈瞬躙
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「―――君に残された時間は後どのくらいあるんだろうね」
「…く…ぁ…!」
ここは豊臣の大阪城で空に限りなく近い彼用の別室だ。助けなんか来ないだろう。
助けを待つな、自分で何とかしないと。
そうだ、まずはこの首にかかる手を払わなくては。
ただ、私の上に乗って首を絞めている彼も病弱だといっても男、しかも武将だ。力で敵うはずは無い。
「―――…君と僕は何が違う?」
「…はん…べ……ぃっ…」
ぎりぎりと呼吸器官が絞まって苦しい。いい加減どうにかしなければ。
彼は一度窓の外を仰ぎ見て私を見下ろした。
「死が近い僕が空に最も近いこの部屋にいるなんて皮肉だろう?」
自嘲したかのような紫がかった瞳がゆらゆらと揺れていた。
ああ、かなしそうないろ。
「――――そ…う…して…自分を…ッ…追い詰め……て、…た…のし……?」
声が、掠れる。
「あな、たは…し…ぬのが…こ、わいだけ………よ…」
「っ!」
瞬間、彼は目を大きく見開いて後ろへ飛びのいた。器官に急激に空気が入ってきて咽く。むせ返りながら、彼を見据えれば何をするでもなく呆然と私を見つめていた。
私の荒い息遣い以外聞こえない静けさをぶち破ったのは、彼。
「そんな、はず」
「『貴方じゃなくて私が死ねばいいのに』と、か『私の時間をあなたにあげたい』とか、…そんな生易しい言葉を貴方は望んでいないでしょ…?」
大分、呼吸も楽になった。
私は立ち上がる。
「残念だけど私は神なんか信じてないし時間が平等だとも思わない。」
「……」
「ただ、ね」
「…………?」
私から視線を外せないように彼を真っ直ぐに見つめる。
「人に与えられた可能性とできる事は平等だと思う。」
「…可能…せ、い……?」
「その人が、一生にできること。」
だから、と私は言葉を続けた。
「今は半兵衛がやりたい事をすればいいんだよ」
命有る限り
(後悔して死んでは欲しくないから)