ハリポタ長編2

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教材だろうか、重そうな紙束や本をいくつも重ねて抱えている後ろ姿
ヒールを履いているからだろうか、床のくぼみにつっかかって時々よろける後ろ姿に、思わず声をかけた。



「エイル…?」



俺の声に反応して振り向いたのは当たり前だがエイルだった。


「はい・・・シリウス?」



いつもどおり、澄んだ声
傾げる首の角度、大きめの瞳

その全てが彼女をエイルだと知らせてくれている。
だが決定的に違うところがひとつだけあった。



「嘘だろ…髪どうしたんだよ」


金色ポニーテールだった彼女の髪の毛は漆のような黒に変わっていたからだ。
ふんわりウェーブする髪質までは変わってはいないものの、頭のてっぺんから毛先までアジア系のように真っ黒
歩き方や横顔を見ればまだしも、後頭部だけだと誰だかわからないだろう。

言われると思っていたのか、瞬時に顔を赤く染め、
恥ずかしげ斜め下に視線を落とすエイルの表情に俺が落ちた。
長いまつげがふるふる揺れる。眉毛や睫毛まで黒くなってしまったようだ。



「………昨日、自室で魔法薬学の実験してたら……失敗したのよ……ほっといて」

「黒髪とか!!かわいい!!なんかえろい!!」

「しね」



吐き捨てて教材を持ち直し、去っていこうとするエイルに勿論ついて行く。



「なによ。ついてこないで。」

「それ重そうだな。持つよ。」

「結構です。
大広間に行った方が良いんじゃない?もう夕食終わっちゃうでしょ」

「エイルは?」

「あたしは明日の授業の下準備があるの」

「熱心な先生だな
手伝うよ。」

「だからいいって・・・」

「こんな時間にやってるってことは、あまり余裕がないんだろう?
2人いれば早く終わる。
そしたら厨房に行って夕食を貰いに行こう。」

「・・・・・・・・」

「一人でやっても朝になるのがオチだぞ」

「・・・消灯時間間際まで生徒を寮の外に連れ出すなんて」

「罰則だとでも言っておけば良い」



なんとかエイルを言いくるめて教材のほぼ全てを半ば奪う勢いでとりあげ、闇防衛術の教室の奥に位置する彼女の私室に入り込む。
いつも片付いているそこは少し散らかっているように見えた。

暫く言われた作業をこなしていると、部屋の隅からガシャガシャと騒がしい音が聞こえた。
顔を伏せて何かを読んでいたエイルがそちらに視線を向ける。



「ああ、起きたのね」

「何かいるのか?」

「ええ、この子よ」



大きい何かを覆い隠していた赤い布を取り払うと、目の細かい大きな鳥かごが現れた。
そこに居たのは真ん丸くて小さい小さい金色の鳥だった。視界が晴れたからか先程よりやかましく鳴いている。



「なんだ、これ」

「スニジェットよ」

「スニジェットって・・・あの?」

「そう。まだ幼鳥だけどね」



スニジェットといえば、魔法界のスポーツであるクィディッチに登場するボール、スニッチの語源である。
昔はスニジェットそのものを捕まえれば得点が150入り試合終了になったのだが、あまりの乱獲により14世紀からは捕獲もクィディッチでの使用も禁止された鳥。



「違法じゃないか」

「禁じられた森で、弱っているところをみつけたのよ。
近くに巣も無かったから、きっと何かに襲われたのね
羽根を怪我していたから、保護をしたの。
あ、でも一応今のところ校長には内緒で。」



ルビーのような赤い瞳がエイルを捉えてピーピーとわめきだした。
見てみると片翼のつけ根に包帯が巻かれている。
なんでもあまりにも暴れるものだから鳥かごを魔法で大きくさせたらしい。



「元気そうだな」

「そうね。でも次の次の授業で取り扱いたいから、もう少し此処に居てもらうわ」

「次の次?」

「次の授業はこれよ」



そう言って指差したのは廊下でエイルが運んでいた何かのフィルム。相当古いもののようで、ラベルには筆記体で『ユニコーンの生態』と書かれていた。
先程から読んでいたものは埃っぽい羊皮紙で、このフィルムを見るためにはこの魔法のスクリーンを組み立てなければいけないらしい。



「ユニコーンか・・・」

「魔法生物飼育学の先生が、子供のユニコーンを保護したそうよ。
もうすぐ親元が見つかるみたいだけど、きっとそっちの授業にでるだろうからこっちでも一緒に勉強してもらおうと思って。」

「見たことあるのか?」

「ええ、学生のときに。昨日も見させてもらったわ。すごく綺麗だった。
男は近付いちゃ駄目よ」

「へぇ、エイルは?」

「・・・私も駄目」



そう聞くと困ったように苦笑いし、そして間髪いれず作業の続きを促された。

さも分からないというように聞いてみたが、本当は知ってる。

ユニコーンは処女にしか懐かない。



「・・・なあ」

「ん?」

「ルシウス・マルフォイ」

「・・・・・・」

「彼氏だったってほんと?」



目が合ったエイルの表情は読み取れなかった。
無表情に近いが、少し陰ったような瞳



「うん」



時が止まった気がした。

やっぱりそうだったのか

グリフィンドールとスリザリンは対抗する。

その2人が、何故?



「在学中に、ちょっとね。
・・・でも、もう昔の話だよ。
今は何でもない」

「引きずってるって聞いたんだけど」

「まさか。何年前の話してるのよ。
ハールね。あのおしゃべり
この話はもうおしまい。
さ、続き・・・」

「じゃあ、」



エイルが座っていたソファに片膝を乗せて迫れば、顔に影が落ちた。
顎を人差し指と親指で掬いあげれば呆けたように微かに開いた唇がこちらを向く。



「俺と付き合ってよ」



口をきゅっと結んで眉を下げる。
今にも泣きそうな顔だった。

しかしそれも一瞬で、すぐに眉間に皺を寄せ
振り払われる手



「冗談でしょ」

「本気だ。3年生のときから、ずっと変わってない。
俺ならエイルを泣かせない。絶対に!」

「誰が泣いてるっていうのよ?」

「泣いてるだろ、今だって」



頬に手を当てると思いのほか熱かった。
滑らかなここにエイルの涙が伝ったと考えるだけで、あの男が憎いと感じる。

彼女の心にはまだ、あいつと過ごした思い出が色濃く残っている。
それはどんなに擦っても傷口に染み込むばかりで

どんな言葉だって受け入れようとしない。



「・・・大人をからかわないで」



静かに放たれた声は確かに怒りが含まれていた。



「シリウス、あなた生徒の間ではかなりの有名人らしいじゃない。
なんでも去年までは女の子をとっかえひっかえしていたとか?
あの時の貴方の言葉が本気だったなんて・・・笑わせるわ」

「・・・っ、それは、」

「出て行って」

「エイル、話を聞けよ」

「聞きたくない。早くでてって!」



バタンと大きな音を立てて閉められたドアを、暫くじっと見つめていた。
ドア越しに消え入りそうな声でエイルが呟くのが聞こえた。



「・・・やめてよ・・・本当に」

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