ハリポタ長編2

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彼に出会ったのは、中庭の隅にぽつんと生える大きな木の下に設置された
白いベンチの上だった。



「やあ」

「・・・人の寝込みを襲うなんて不躾ね。本当に名家のお坊ちゃんなの?」

「別に君の寝込みを襲ったわけじゃない。
ただ、此処には私もよく来ていてね。
このベンチに座って本を読むのが好きなんだ。」

「だからって、私が寝ている上で本を読むの?」

「太ももに座るのも悪くない。太めで丁度良い。」

「痛いんですけど」



彼の家系は生粋の純潔一家で、名家の息子
緑とシルバーのネクタイを誇らしげに締めている、普通に過ごしていればきっと出会う接点すらなかった人。

けれど彼は昼寝の度にこの白いベンチに現れては私の睡眠を邪魔した。



「また来たんですか、マルフォイ先輩」

「君こそまた居たのかい」

「此処は私の秘密の場所なんです。
日当たりが良くて気持ちが良いし」

「奇遇だね、私も此処を気に入っているんだ。」

「てっきりスリザリンは集団でしか行動できな・・・しないのかと思っていました。」

「私だって一人になりたいときはあるんだよ」

「結局一人になれてないですけどね」

「ああ・・・でも君となら、良いかな」

「え?」



お互いが名前で呼び合うのに時間はかからなかった。

会う日時は決まっていなくて、自分が来たい時に来るこの白いベンチ
だけど何故か、行く時にはいつも遭遇して、他愛も無い話をした。

気取ったような話し方は、表向きで
本当は細かい気配りをするような彼の会話に優しさを感じた。
春の陽だまりの中の会話はとても、楽しかった。



「大広間では目も合わせてくれないのか」

「だってグリフィンドールの私と仲が良いなんて、ルシウスの身内に知られたら事でしょ」

「ああ、確かに」

「特にあのブラック3姉妹の長女」

「ベラトリクスか。
私は別に良いのだけれどね」

「またそんなこと言って」

「けれど彼女も今年で卒業だ。
そうすればもう気にしなくて良いだろう?」

「駄目よ。
ルシウスと私が話をするのは2人きりのときだけ。
困るのは私じゃなくて、貴方なのよ」

「・・・好きなんだ、君が」

「・・・え ?」

「あの日
ベンチでまどろむ君を見て、一目惚れだった。
寮なんて関係ない、そう思った」

「・・・・・」

「私と付き合ってくれ」



くい、と顎を掬われる。
合わさる瞳を見て、彼が本気だということが伝わってきた。

言われるまで気づかなかった
私も彼に惹かれていたことに



「最近ブラックの長男と仲が良いな」

「シリウスのこと?可愛くて良い子よ。
あの子とも、このベンチで会ったの。
ほらこの間珍しくルシウスが来なかった日」

「此処は私とお前だけの秘密の場所じゃなかったのか?」

「って言っても、見つかっちゃったんだもの」

「・・・・・妬けるな」

「んっ、ちょっと、ルシウス・・・ん、ふ・・・
やだ、こんな所で・・・誰か見てたら・・・」

「見せ付けてやれば良い。
どうせ遅かれ早かればれるさ・・・」



夜中に空き教室で会ったりもした。
ホグズミードでこっそりデートしたり、展望台に上って星を見に行ったり。



「エイルは実践魔法が好きなのか」

「身体を動かす方が好きよ。あとクィディッチとか。
占い学とか天文学は苦手なの。星なんかキラキラしているのを眺めるだけで良いじゃない。」

「随分がさつだな。女子とは思えない」

「う、うるさいわね・・・そう言うルシウスだって箒乗るの上手いくせに。」

「今度後ろに乗るか?」

「え、本当?」



あっという間に1年が過ぎて、次第に噂が広まった。

“ルシウス・マルフォイの彼女”

“金髪”

“年下”






それから随分経って
ある日を境に、いつもの場所にルシウスがぱったり来なくなった。
確か、イースター休暇のすぐ後

そして数日後に知った。
彼の婚約者が決まったと。

相手の名はナルシッサ・ブラック
3姉妹の三女である彼女は、同学年だった。

私と同じだけれど、似ても似つかないストレートの金髪は、肩より少し下で丁寧に切り揃えられている。
彼と同じ色のネクタイ
おしとやかにはにかむ表情は、育ちの良さを滲ませていた。

噂どおり、やっぱり本当だったんだと皆が小声で囁きあう。

すぐに気づいた。
まるで私と正反対ではないかと。

大広間や廊下でチラリと視界に入るルシウスの横には、いつでも彼女が健気について行く姿が見受けられた。
周りが皆祝福する、絵に描いたような政略結婚。



私一人の時間だけが、止まっていた。





「・・・私まだ、あなたの後ろに乗ってないんだけど」

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