ハリポタ長編2

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もう白いベンチには近付くことすらしなくなった。
けれど存在はいつも、頭の片隅にあった。



「あっあの・・・
アウルヴァングさん!」



振り返ると其処には昨日の彼女が立っていた。

手には小さな包み紙。
御礼は良いって言ったのに。

足を止めれば近寄ってくる。
その顔は昨日と違い今にも泣きそうな面持ちだった。



「あの、あの・・・っ私・・・っ
ごめんなさい!!!」

「・・・・・・」

「私、知らなくて、その、
ルシウスと、貴女が、その・・・っ
恋人同士、だったなんて・・・」



顔の筋肉が石のように固まった気がした。

ルシウス、と彼女の口からあふれ出すたび、なんともいえない気持ちがどろどろ流れ出した。
独占欲なのか?これが?
彼は私のものじゃないっていうのに。



「昨日言ったの。とても親切なグリフィンドールの人に、助けて貰ったって。
名前を言ったら、彼、すごく驚いていて。

わ、私・・・ルシウスとの婚約が決まってから
ずっと彼について行ってたけど、彼が恋人らしく振舞うことなんか一度も無かったわ
それは貴女がいたからなのね・・・私、無神経で・・・本当にごめんなさい・・・」

「・・・・・・良いのよ」

「え?」

「もう、良いのよ」



これは自分の声なのかっていうくらい、無機質な声色だった。
どこか一点を見つめたまま、拳を握り締めて、つらつらと言葉を紡ぐ。



「政略結婚だもの、破棄なんてできないでしょう」

「それでも、ルシウスは本気で貴女のことが好きだわ・・・!」

「・・・どうかしら。
貴女との婚約が決まってから、一度も会ってないの。」

「え・・・」

「遊びだったのよ。きっと。
私だけが一人で、盛り上がっていたの。」



彼女が言うには、ルシウスはまだ私のことを思っているのかもしれない。
けれどどっちにせよ、結末は同じ。
変えられない。絶対に。

だから、こうでも思わなければ、乗り切れない。



「ちが・・・っそんなことないわ」

「貴女は?」

「え?」

「彼のこと、好きなの?」



どうせ彼と別れることになるのだったら、彼は愛されて欲しい。
そして彼女を愛して欲しい、
・・・とまでは、まだ綺麗ごとで、本心じゃないかもしれないけど。

でも、この数日でがらりと変わった彼女の印象。
女の子らしくて、礼儀正しくて、とても良い子だ。
私なんかとは正反対。



「・・・・・好き」



戸惑うように、ゆっくりと、
けれどしっかり答えた彼女の頬は薄桃色に染まっていた。

ああ、良かった



「・・・そう
ならいいの」



頬の筋肉がぎこちなくつり上がる。
きっと酷い顔をしているのだろう。笑ってあげたいのに。



「意外に嫉妬深いから、ちゃんと愛してあげて」



そう言って寮へと進めていた足を再開させた。



「待って!
・・・彼、貴女のこと待っているわ!
いつも一人でいるの・・・知っているでしょう?中庭の白いベンチ」

「・・・・・」

「行ってあげて」

「・・・・・」

「お願い」



返事をすることなく、私は寮へと戻った。




「お願い・・・」

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