オリジナル
□ヤマアラシのジレンマ
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心って、ひどく傷つきやすい。
『ヤマアラシのジレンマ』
―――
放課後、私は空手部の部室裏の空き地で準備運動代わりの縄跳びをしながら、鬱々と考えごとをしていた。
今日は部活は無いんだけど、体を動かしてなんとかこのモヤモヤを消したい。
原因は幼なじみのあのバカだ。
「……………」
「――あ、利緒ちゃん」
ふっと思考が途切れ、顔を上げると見慣れた先輩が立っていた。
弓道部のマドンナと言われている、桐生先輩だ。
背も高くてすらりとしていてかなりの美人だし、弓道だけじゃなく足も速くてバスケの助っ人に出たりする。勉強だって学年トップの、まさに才色兼備な人だ。
なんでそんな人が私の名前を知っているのかというと、それはささやかな出会いから始まるのだけど。
先輩の足元は素足に雪駄という寒そうな組み合わせ。まあ弓道部だから当たり前かな。
白い息をほうっと吐いた。
「今日は寒いねー。縄跳び?」
「あ、はい。やっぱり体が小さいと、それをカバーするぐらいの跳躍力が必要だと思ったので」
「なるほど」
桐生先輩は頷きながら、砂利を踏み締めつつこちらに歩いてくる。
だから私も縄跳びを止め、息を整えながらぐいぐいとストレッチをした。
先輩は弓道部のユニフォームでもある袴姿で、くるりと辺りを見渡す。
「利緒ちゃん、なにかあったの?」
「へ?」