オリジナルU

□遅めの青春、脱力系
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 くあ、と欠伸がひとつ。

 伏せていた机からのそり起き上がる様子は、まるで猫みたいな暢気なもの。ぴんと跳ねた寝癖と片耳に突っ込まれたイヤホンは、そいつの自由度の象徴だと思う。


 そいつの隣であたしは、呆れながらノートを鞄にしまった。


「今更起きるとか」

「んー」


 もぞもぞ動き出したそいつは、イヤホンを引っ張ってその先でつながるウォークマンを指先でつまんだ。そいつは物持ちが良いらしく、何世代か前の型のそれを愛用している。

 ポケットから取り出したウォークマンを片手で何やら操作しながら、もう片手で机の上を片付け始めた。


「ふあーあ。…あー、もうこの辺から記憶無いわ」

「どれ?…は?11曲前じゃん。アルバム聴き終わるっつーの」

「この曲がねー好きなのさー」

「どうでもいいけど早く片付けたら?ほら消しカス!何でノート取ってないくせに消しカス出るの。どうせまた落書きしてたんでしょ」

「ちょっ、これ聴いてよー」

「あーはいはい。片っぽよこせ」

「右?左?」

「どっちでもいいわ」

「じゃー右ね。あたし左利きだから!」

「くだらないこと言ってないで早く片付けろ」


 はあいとやる気の無い返事をして、そいつは机の上の消しカスを一カ所にまとめ、消しゴムやペンやらをペンケースにしまう。内容が薄っぺらのノートと一緒にそれらを鞄に入れた。

 そんな光景を眺めながら、右耳から流れてくる曲を聴いていた。紡がれる歌声やノリのいいベースの音は、悔しいことに私の耳に心地よく響いてくる。
 こいつの選ぶ曲は私の好みに随分合っていて、それがまた腹立たしくもあるのだ。



「はいっ片付けた」

「はいはい」

「えっ褒めてよ」

「あんた褒めると調子に乗るでしょ」

「いやあそんな」

「照れんな」


 
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