オリジナルU
□遅めの青春、脱力系
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そいつはメッセンジャーバッグを机の上に置いて、正面を向きながら深く背もたれに体を預けた。私たちは顔を見合わせることなく、それぞれぼんやりと何も書かれていない、高校のよりもでかい黒板を眺めていた。
次の授業は休講で、昼休みを挟んでその次の授業も休講だ。ああ、なんて暇な日。
私は机に腕を組むように置いて、その上に顎を載せた。
「あー…もー、眠い」
「えっ。寝てないの?」
「あんたと一緒にすんな」
「講義って寝るもんだと思ってた」
「黙れ…」
眠気にかまけてもぞもぞ喋り、私は組んだ腕の上に頭を載せて目を閉じた。
意識の外に追いやっていた眠気が段々と戻ってくる。後頭部からやってきて全身を包む、やわらかくて抗えないもの。
そのまま頭を真っ白にして、まどろむ眠気の中、イヤホンでふさがっている耳とは逆の方から、低く滑らかな声が聞こえてきた。目を閉じていたって解る。
あいつの気まぐれな歌声だ。
「……〜…、〜〜〜」
右耳のイヤホンから流れ出る歌は、元気なバンドとボーカルがまっしぐらに突っ走っていくような曲。まだ若い女の子の声だ。
でも、隣で口ずさむあいつの声は、滑るような低い鼻歌。例えるなら疲れを知らずに飄々と駆けていく感じ。
その歌は、泥臭くなりながら、それでも真っ直ぐ夢を追うお話を描いた歌だった。
ばかやろーなんていってテスト破り捨てた…、そんな歌詞に少し笑った。そういえば隣のこいつもやってたな。
そんなことを考えながら曲とあいつの鼻歌を黙って聴いていると、段々と両方のテンションが上がっていくのが分かる。
階段を上がって、上がって、駆け上がっていく。
そんな感じ。
「〜〜〜、――…
…"All righ(解ったよ)、
Let's sing a song(歌を歌おう)…!!"」
――イントネーションは完璧。
バンドが一気に爆発していく。こっちの体も一緒にヒートアップするみたいな。
いっそ気持ちいいくらいの高音が、青空のように澄んで響き渡っていく。それが女の子の声。
隣のあいつはそのオクターブ下を口ずさみ、小さく笑っているようだった。
私は黙って目を閉じながら、両方から聞こえる音楽に耳を澄ます。
「"解ることなんて少ないさ、
解るのはこれが青春ってこと――…"」
でも私たちはよそから見れば、講義終わりの教室でだらだらしているだけのただの学生だ。
変わったことなんて一つもないし、勉強もしなければならないし、鞄の中には教科書が入っているし、レポートだって2つ溜まっている。夢を追うには少しばかり気力と気合と時間が足りない。そんなよくある学生のうちの一人なのだ。
ヴーン…とベースが最後に音を鳴らして曲は終わった。
何も聞こえなくなったイヤホンを、私たちはそれでもしばらく隣り合った耳同士で繋いでいた。