オリジナルU

□遅めの青春、脱力系
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「………」

「………」



 誰かが開けっ放しにしていった窓から、少しだけ暑くなりそうな気配を感じさせる風がゆらりと流れてくる。

 さあ、と僅かに緩やかなそれを感じながら、私は目を閉じたまま口を開いた。



「良い曲だね」

「うん。でしょ?」

「誰の曲?」

「えーっと。SKY…だったような」

「え?外人?」

「日本人。まだ高校生で、アメリカで歌の勉強したって聞いたけど。まだ有名じゃないけど、良い曲でしょー」

「どっから見つけたのさ」

「バイトの先輩がねー」



 そんなことをぽつぽつと話す。

 話す途中に再び流れ出したメロディー。そいつがまた同じ曲を再生したのだと分かったけれど、結局何も言わなかった。

 つまるところ私はその曲と、悔しいけれどそいつの口ずさむ歌が気に入っているのだ。



「ねー、後でカラオケ行こうよ」

「放課後?」

「今」

「ふざけんな」

「えー!さぼろーよ!」

「あんたと違って真面目なんです」

「授業中にケータイいじるくせに」

「マンガ読むあんたに言われたくない」



 夢なんてとっくの昔に忘れたけど。
 追うことも願うことも、面倒臭いの一言で済ましてしまう私だけど。



「………」

「ん?何?」


 顔を上げてそいつを見た。

 彼女はウォークマンをいじりながら、きょとんとした顔で私を見る。やる気は無さそうなのに整った顔。なんだか少し腹立たしい。


「…なんでもない」

「えー」


 納得していないように何やらぎゃーぎゃーと文句を言い出すそいつからさっさと目線を反らして、頬杖をついて外を見た。


 青い空。白い雲。

 ああ、夏が始まる。



「…ねえ」

「へ?」

「青春、してみよっか」



 こいつと二人なら、退屈なんてしないだろう。



(テキトーに歩いて、たまに歌って)

(そういう青春もアリなんじゃない?)

 脱力系女子、なんて新しいかも。



   『遅めの青春、脱力系』end
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