オリジナルU
□秘密組織"Monster"
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「ドラゴン。怪我をしたのはそこだけ?」
「はい。…ごめんなさい」
「私に謝るんじゃないでしょう」
「……ごめん、レオ」
「解れば良い」
そんな会話は日本語で。それでも違和感をぬぐえないのは、きっと彼らの頭部に問題があるのだろう。
ドラゴンと呼ばれた少女、やっと胸倉を離されてぺたんと座った、その者の頭には、どう見ても人間ではない生き物の頭部――それも頭蓋骨がすっぽりと被せられている。馬にしては短いし、トカゲにしては顎ががっしりとしていて、強いて言うならティラノサウルスの化石によく似ている。違うのは牙の一つ一つが大きくごついことと、後頭部にトサカのような棘が幾つかあることぐらいである。
真っ暗な眼孔の奥には何も見えない。ただ、短めの黒髪が後ろから見える程度だ。
レオは座るドラゴンの目(辺り)を見下ろしながら、猫科特有の瞳を微かに細める。普段の喧嘩相手であるドラゴンがこうやって素直に謝ると、調子が出ないのがいつものこと。
「…手当て、するよ」
「うん」
頷いて立ち上がったドラゴンは、レオやフォックスよりも背が高い。逆転した目の高さは、それも二人の間でしばしば喧嘩の種になりうる。
歩き出すレオについていくドラゴンを見ながら、フォックスは手首につけた時計を確認した。
「…2:00。」
「ただいま」
時刻を呟くと同時に、隣にぽんと立った影。
見上げると、嬉しげに目を細めた黒い毛並みのスーツ姿が立っている。フォックスと違って男物だが、それを嫌味なく着こなす姿はスマートな彼女によく似合う。
フォックスは思わず面の下で微笑みながら、隣の大きな体を抱きしめた。お返しにと伸ばされた両腕にすっぽりと抱えられるのはご愛嬌。
「お帰りなさい、ジャガー」
「うん。疲れた」
「怪我は?」
「無い。ドラゴンは」
「してきたみたい。かすり傷だけどね」
ジャガーはフォックスの体越しに、向こうで早くも喧嘩を始めた二人を見やった。あーあー、レオは手加減苦手だからなーとぼやく。
それでも、まあいっかなんて言って改めてフォックスを抱きしめることに専念するのだからうちの頭領が一番手がかかるんじゃないだろうか、なんて思っているのはフォックスだけじゃないんだろう。溜息をつくフォックスのお面の、細い目元に獰猛な豹の顎が触れる。
「後始末は?」
「いつも通り。報酬は三日後」
「それまで休みだね、どっか行く?」
「また無人島でも行こうか?」
「どっかのバカな学者さんとかにまた見つからないと良いけどね」
「確かに、これ以上学会を荒らすわけにもいかないもんな」
無人島に獣頭の人類現る、なんて冗談じゃないとジャガーは顔をしかめた。ちらりと覗く白い牙。
「じゃあ、どうする?」
「どうもしないさ」
笑ったジャガーはフォックスを抱きしめながら、隣のソファになだれ込んだ。向こうで喧嘩は続いてるけど、知ったこっちゃない。
ジャガーお気に入りのL字型ソファは彼女と同じ真っ黒。その上で2人は子猫みたいにじゃれ合う。フォックスの細い背中をジャガーの大きくてしなやかで薄い手の平が辿る。フォックスはくすくす笑いながら黒豹の体に身を預けた。獣と人間の境目を指でなぞると、ジャガーは目を細めて喉をごろごろ鳴らした。猫のそれよりだいぶ殺伐としているけど。