オリジナルU
□ハロー、神様。
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「……早くない?」
「決められていた運命によると、君はあと1ヶ月後まで生きられたんだ。まあ、延命装置によってだけどね。でも運命は、どうやら変えられたみたいだから」
言うと、少女は軽く目を見開いた。
最初の印象としては、年の割には大人びていると思った。ひっそりと佇む桜の木のように。でもこうして感情が浮かぶと、まだ幼さの残る顔立ちだとも思う。
「誰が、私の運命を変えたの?あなた?」
「言ったろう、僕は運命に従うと。運命を変えたのは他でもない、君自身だよ。」
――死にたい、と。
少女は確かにそう願った。
生きたいと願う思いよりも、深いところで刻まれた濃い願い。故に運命は変えられたのだ。
運命に従う僕だけど、詳しいことは未だ知らない。どの様にして運命が決まり、定められ、どの様にして与えられるのかは知らないのだ。
解るのはそれが目に見えないものだということ、人の運命は複雑だということくらい。だから僕は僕なりに、運命とは気まぐれなものであると解釈していた。
その少女に課せられた運命は3ヶ月後の生の終わり。延命装置によって無理やり長らえさせられた心臓が不調をきたし、脈が止まる。脳は既に動かない。
しかし彼女は運命を変えたいと願った。
強い願いは運命を変える。僕は永い永い生の間で、そういうことが往々にして起こり得るのを知っていった。
「私…、」
「君は生きたいと願ったね。だけどそれより、君は死にたいと願った。一生叶わない、報われない想いを抱えて生きるなら、いっそ死んで楽になりたいと願ったんだ」
――その瞬間、少女ははっと息を飲んだようだった。
震えた彼女をしばらく眺め、僕はゆっくりと目を閉じた。自然と握られる手の平に、行き場のない力がこもる。人に感情移入をしてしまうのは、神としては失格なのかもしれない。
役目を果たす度にこの胸は痛むのだと思うと、どうにも切なくなってしまうのだから。