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□エンドレス・ハッピータイム
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 闇に浮かぶのは彼女のことばかり。

 寝ても覚めても同じ感情に支配されて、私はどこかきっとおかしい。じゃなければこんなに病んだように彼女のことを想うわけがないのだ。


「…馬鹿らし」


 呟いて携帯を投げ出す。がつんと床に落ちた音がした。私の気持ちもそうやって投げ出せたら良かったのに、それはずっと心の真ん中にこびりついて離れない。

 腕で目を塞いでも、彼女がこちらを見ているような気がした。ひどく胸が痛かった。


「……もー…」


 呻いてごろりと寝返りを打つ。何も考えたくはないのに、真っ暗な夜はまっさらな頭の中が彼女でいっぱいになってしまう。浮かんでは消して、浮かんでは消して、やっと浅い眠りに落ちた、その夢の中にまで彼女が出てきて。そうなるととうとう眠れない。そうして私は夜を過ごして、眠れない朝を迎えるのだ。

 夢の中では彼女は私と、二人きりで時間を過ごしている。そんな時の彼女は実に幸せそうで、私も幸せなはずなのに、どうしてかこれが夢だと分かっている。そして夢は終わりを迎え、私は嫌悪感に苛まれて頭痛と吐き気に襲われる。

 そのくせ現実の彼女はけろりといつも通りの様子で、私の寝不足なくまを見てけらけら笑う。そうして私の顔に触れてからかって、人の気持ちも知らないで柔らかく笑いながら人にじゃれつくのだ。


 ――いつの間にか流れた涙をぬぐうと、窓の外がぼんやりと青い。深い水底から浮き上がるような朝。そう、朝だ。

 私は起き上がって、頭の中を空っぽにして支度をして家を出て大学に行き、そして講義を受けなければならない。彼女の隣に座らなければならない。彼女の話に耳を傾けなければならない。彼女の仕草に、笑顔に、ふれあいに、いちいち応えてやらねばならない。それはいつだって私の胸をひどく締め付ける。

 それでもその行為をやめることが出来ないのは、その胸の締め付けが苦しいくせにどこか甘いものであるためなのか、どこか中毒性があるものだからなのか、私には判別が出来なかった。そこまで頭が働かないのが実際のところだ。

 そうして私は今日も、憑りつかれたようにベッドから起き上がって、投げ捨てた携帯を拾い上げて支度を始める。


 この繰り返しが終わることがあるのだろうか、それすら私には解らない。



   『エンドレス・ハッピータイム』end
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