オリジナルU
□もう一度、
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「助かるー、お礼はちゃんとするね!」
いいえ、と言うように私はゆっくり首を横に振った。
彼女の一瞬の表情が、笑う目元が。私の中の誰かに重なった気がした。
塞いだ喉が悲鳴をあげた。
彼女は受け取ったプリントをリュックに仕舞いながら、じっと私のことを見つめる。少し背の低い彼女を、私は見下ろすようにしてすんでのところで見つめ返した。
「…ねー、滝さんってさ」
リュックを背負い直し、彼女は私に一歩近づく。
その距離に驚いて一歩退いてしまって、それでも彼女は構わずに右手を伸ばしてきた。躊躇いも見せずにそれは私の顎に触れる。
久しぶりの人の体温は、ひどく熱く感じた。
「――…っ」
「喉、まだ治んないの?」
す、と彼女の手が私の顎の下にいく。びくりと後ずさりしかけた私は、後ろが階段だったことを思い出してその動きを止める。
さらけ出された私の喉に、彼女はその指でそっと触れた。
その柔かさが、体温が、刺激が。
全部を忘れようとしてしまった私には、怖くて熱くて痛く感じてしまったのだ。
「腫れてはないみたいだよね、って、わ」
「………ッ!」
振り払うようにして首をそむける。
離れた彼女の手が宙にふらりと揺れて、私はそれを横目に見ながら、踵を返して階段を降りはじめた。
「あー…ごめん、滝さん」
階段の上、彼女は困ったような顔で立ってそう言った。私は踊り場の途中で足を止めて、小さく首を横に振る。笑えていただろうか。多分、無理だな。
「プリント、コピーして返すから」
いつでも良いよ。
そう言うつもりで頷いた。彼女には伝わっただろうか。わからない。言葉にしなきゃそんなこと分からない。でも口に出してしまうと、今この瞬間でも泣き叫んでしまうのだろうか。みっともなく未練を呟いてしまうのだろうか。そんなことが怖くて、恐ろしくて、私は口を開くことが出来ない。自分がまだ、あの子を忘れられないでいることが分かってしまったら。
私はそこで考えるのをやめて、彼女からの視線を断ち切って階段を早足に下った。