オリジナルU

□もう一度、
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 家に帰る。

 真っ暗な部屋、手探りでベッドまで向かった。鞄をテキトーに投げ、服だけささっと脱いで倒れ込む。

 枕に顔を埋めて視界を消した。それでも浮かんでくるのはやっぱりあの子の顔だった。


「………ッ」


 あの子はいない。もういないんだ。

 あの子の隣にはもう立てない。そんなことなんてとっくに解りきってる。ただ私は幸せそうに笑うあの子の瞳を、私だけで満たしたかった。そんな未来があれば良いと願ったんだ。けれどきっとそれはどこにも、約束されることなんて無かった。



「…くるし……」


 呻いた声はつぶれたように、掠れて引き攣れた音しか出なかった。嗚咽が喉からこみあげてきて、大声を上げようとしたのにそれも出来なかった。

 はくはくと浅い呼吸を繰り返して、私はその夜も泣き続けた。


 夢に出てきたのは真っ白な部屋と、ベッドとあの子とそれから私。あの子と私は手を繋いでいて、なのに彼女は笑って立ち上がり、すいと離れて部屋を出て行ってしまう。私はそれを追うことは出来ない。


 彼女はいなくなってしまうと、最初から知っていたのかもしれなかった。





 次の週、大学の隅にある古ぼけたベンチに座ってぼんやりしていると、隣に誰かが歩いてくるのが分かった。


「滝さん」


 声で足音の主が分かった私は、そのまま静かに相手の顔を見上げる。予想通りの人物がそこにはいて、手にはプリントを一枚持っていた。

 彼女――穂純さんは、プリントを私に差し出しつつ近寄ってくる。

「これありがとう。助かったよー」

 私は頷いてそれを受け取る。それだけだろうとまたぼんやり前を見ようとすると、目の前に何かが突き出された。


「…?」

「あとこれ。お礼に、はい」


 
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