遙かなる夢物語

□壊滅的平家物語〜拍手ログ編〜
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昨年の源氏との戦では、"源氏の神子"なる者が現れたことで平家はかなりの劣勢を強いられた。しかもそれが将臣さんがずっと探していた望美先輩だということもあり…モチベーションの下がった将臣さんの指揮の下、連戦連敗、とまではいかないが…そんな気分と雰囲気を一新すべく、年明けに新年会が行われた。責任を感じていた将臣さんはあくまで明るく振る舞うも、平家の棟梁たる清盛様はとことん機嫌が悪かった。おかげでよほど肝の据わった者しか宴会を楽しむことができず、微妙な年明けとなってしまったのである。

「はあ……。」
『まぁ、元気出してくださいよ将臣さん。』
「慰めなんていらねぇよ…。」
『そうですか?じゃあもっとしっかりやってくださいよ、このロリコン。』
「お前、ますます惟盛に似てきたな…。」

新年会が終わり、将臣さんは屋敷の廊下を重い足取りで歩いていた。新年会がまったく盛り上がらなかったことに加え、敵に望美先輩がいるということで、将臣さんのモチベーションは下がる一方らしい。私がフォローしても何ら効果がないため逆に貶してみたら、
将臣さんの目尻にちょっぴり涙が浮かんだ。
『泣かないでくださいよ将臣さん。ほら、私を望美先輩だと思って。』
「のっ、望美?!」
『うわっ、目がマジだ!』
「望美ィィー!」

ついにはホロホロと泣き出してしまった将臣さんに、私はやれやれと頭を振りながらそう告げた。すると本気にしたらしい将臣さんが私に向かって腕を広げ、抱きつこうとする。その表情がまた必死だったからどことなく気持ち悪くて、私はとっさに身を引いてしまう。すると見事に空振りした将臣さんはその勢いで目の前の障子戸をぶち破り、部屋の中に思いきり突っ込んだ。

『将臣さん?大丈夫ですか?』
「ちょ、おまっ、なんで避けるんだよ!」
『いやぁ、だって、気持ち悪かったから…』
「惟盛以上だな!その言い方!」
『あはは、それほどでも。』

見事に穴の空いてしまった障子戸をくぐり抜けて部屋に入ると、将臣さんが畳の上で頭を押さえて突っ伏していた。さらに突っ込んだ勢いで破ってしまったのであろう、ビリビリに破けた掛け軸が散らばっている。まったく、どんだけすげー勢いで突っ込んだんだよ…と肩を落としていると、荒々しい足取りで惟盛さまが姿を現す。

「バタバタと何をやっているのです!」
『あ、惟盛さま。違うんですよ、将臣さんが…』
「また貴方ですか!まったく!ここを誰のお部屋だと、思っ…」
「悪い悪い惟盛、すぐに障子戸直させるから……ん?どうした?」

私があらかたの説明を終えると、それまで呆れた面持ちで杓子を振っていた惟盛さまが汚物を見るような目を将臣さんに向けた。まぁ、それはいつものことだけど。とはいえ外は粉雪がはらはらと舞っており、惟盛さまも私もその寒さから自然と室内に足を踏み入れる。半ば冗談で眉を下げた将臣さんだったけど、なぜか惟盛さまは徐々に表情を固くしていく。そしてその視線の先には破けた掛け軸。ついには色白なお顔を青ざめさせて後退りを始めた惟盛さまに、将臣さんは起きあがりながら訊ねる。

「どうしたんだ、惟盛?昨日のおせちが傷んでたか?」
『やめてください将臣さん。燃やされますよ。』
「…貴方…」
「ん?」
「その掛け軸…」
『将臣さんが破きました。』
「ちょっ!」

明らかに表情を変えた惟盛さまに冗談で返す将臣さん。いつもなら怒るところなのに、惟盛さまはそれどころかむしろますます杓子を握る力が強くする。
とりあえず将臣さんの罪を告白すれば、惟盛さまは「やれやれ」と言った面持ちで首を振った。

「……それは、お祖父様が最近購入した掛け軸でして…」
『へぇー、清盛様が…』
「…なんでも、一番のお気に入りとか。」
「へぇー、清盛の…」
『お気に入り…』

清盛様の、お気に入り。そのフレーズが頭の中を駆け巡る。私は反射的に将臣さんを見た。ビリビリに破けた掛け軸は将臣さんの足の下にある。お高そうな、いかにも貴族が持ってそうな絵柄のそれが、将臣さんの足袋の下で、グシャグシャに……。












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