狂想曲

□狂想曲・後編
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「でも、まぁ」
シズちゃんの声が、心にすっと入ってくる。まるでこの混乱を鎮めてくれるような、光のようだと、一瞬思ってしまった。
「無事で良かったな」
ふ、と頬笑みかけられた瞬間、心臓が止まるかと思った。
「臨也」
更に追い打ちをかけるかのように、一撃を加えてくる。
どくん、と心臓が震えた。

「…ず、るい…よ…」

「何か言ったか?」
「ううん、何でもない」
「そうか?……じゃあ、もうそろそろ帰るかな。長居したな」
「待って」

椅子から立ち上がりかけたシズちゃんに、俺は思わず声をかけた。
俺はシズちゃんの服の袖を引っ張り、反対の手では毛布をきつく握りしめていた。

「……もうちょっと、座ってて」
「はぁ?手前、何いって」
「いいから」
我儘だと思われても構わない。ただ、もう少し、シズちゃんと一緒にいたいと思った。それだけだった。
「お願い…シズちゃん」
チッ、と微かに舌打ちは聞こえたが、俺の要求を受け入れてくれるらしい。シズちゃんが椅子に座り直そうとした。
「シズちゃん…ここ、隣に座って?」
「……どうしたんだよ、手前?」
怪訝そうな表情を浮かべながらも、そのお願いにも応えてくれる。ベッドの縁に腰を下ろしたシズちゃんに、俺は抱き付いた。
今は離したくなかった。
そうでもしないと、もう本当に帰ってしまいそうで、怖かった。離れていくのが怖い。今帰ったら、もう二度と会えないんじゃないか―――何か馬鹿馬鹿しいかもしれないけど、そんな事まで考えてしまっていた。

久々に感じる、シズちゃんの空気。俺はシズちゃんの胸に顔を擦り寄せた。
「シズちゃん…」
何だか泣きたくなる、この気持ちは何なんだろう?胸が締め付けられるような、それでいてどこか仄甘い感覚。
随分と弱ってるんだな、と苦笑しつつ、俺はシズちゃんを抱く腕を少し緩めた。
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