狂想曲

□狂想曲・後編
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「臨也」
「え?な、に…?」
不意打ちの様にシズちゃんが俺の名前を呼ぶ。矢張り、名前で呼ばれると気恥ずかしさがある。俺は頬があつくなっていくのを感じていた。
見上げると、シズちゃんが俺の顔をじっと見つめていた。視線を逸らす事も無く、ただじっと見つめられている。それだけなのに、俺の心は悲鳴をあげるようにきゅうきゅう締めつけられていく。
「ぁ…」
不意に漏れた自分の声が、酷く震えていた。
シズちゃんが俺の方に身を屈めてくる。シズちゃんの大きな手が、俺の前髪を撫で上げた。

「…!っん……」

こつん、と音をたてて、互いの額が触れる。
驚いて閉じた目を開ければ、目の前にシズちゃんの顔がある。
「……熱い、な」
至近距離で一言、そう呟くと、シズちゃんが額を離す。前髪をそっと撫でて直してくれた手も、離れていった。
「手前はもう寝ろ。また熱が上がるぞ?」
「……っ、俺、まだ、シズちゃんと一緒にいたい…」
我ながら情けない声とらしからぬ台詞に言っていて恥ずかしくなってくる。
こんな事になってしまうのも、こんなにシズちゃんが近くにいて、普通に接してくれるからだと思う。しかも、こんなに俺の事、心配してくれて。
否応が無しに、意識しちゃうのは、寧ろ当たり前なんじゃない?
「駄々っ子みたいだな、手前はよぅ?」
もういい加減にしろ、という言葉と共に、俺は無理やりベッドに寝かせられる。少しばかり乱雑にかけられた毛布の下から、シズちゃんを見上げた。
「シズちゃん」
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