狂想曲

□狂想曲・後編
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「何だよ?まだ何かあるのか?」
「最後にひとつだけ、」
溜息をついたシズちゃんに、俺はにこりと微笑んだ。
「名前、呼んで?」

きょとん、とシズちゃんの目が丸くなる。
今までの無理難題から、まさかここまで単純なお願いだとは予想してなかったのだろう。
少し間を置いて、部屋にシズちゃんの声が響く。

「臨也」

その余韻を聞きとってから、俺は口を開く。
「シズちゃん、今度はここ、枕元にきて?」
「手前、いちいち注文を増やすな…っ」
「いいじゃん減るもんでもなし。あと一回だけ。いいでしょ?そしたら寝るからさ」
「……仕方ねェな」

シズちゃんが、俺の枕元に立て膝をついて俺を窺い見る。俺は上体を起こしてシズちゃんの方を見た。
「?何だよ」
「うん。シズちゃん…」
俺は迷わず、シズちゃんの唇に、自分の唇を重ねた。一度離れて、再び唇を合わせる。
今度は完全に離れた唇からは、甘ったるい吐息が漏れた。

「おやすみ」
「ッ……お、おやすみ」

頬を真っ赤に染めたシズちゃんが、俺の顔を一度も見る事無く足早に去っていく。
玄関のドアを閉める音が聞こえる。と同時に、俺はベッドに倒れ込んだ。
額に手をやれば、言われた通り熱が籠っている。きっとさっきのシズちゃんみたいに、顔も真っ赤なんだろうな、とか思いつつ。


俺は再び、意識を失っていった。


【END】
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