main 〜Roman〜

□C'est Bon.
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「味見しないのかね?」
焼きあがったクッキーを見ていると、洗い物をしていたアビスがふと顔を上げて尋ねてきた。

彼がオーギュストの風車小屋に来たのが数時間前、それから飽きもせずにずっと、オーギュストがクッキーを作る一連の作業を見ていた。それだけでも十分楽しいのだという。
…よくわからないが。
無事クッキーも焼きあがり、「洗い物位なら私がしよう」という申し出に甘えて、今アビスが調理用具を片付けてくれているのだ。有難いのだが少々手持ち無沙汰になったときに、その言葉。
反論する要素も無いので、ひとつ放り込んでやろうと一片をつまむ。
「ほら」
目前に差し出してやるが、先程の言葉とは裏腹に食べようとしない。
「アビス。食べないのか?」
「君が「あーん」ってしてくれたら食べようか」
「…っ…、馬鹿らしい…」

そっぽを向くが、クッキーを持つ方の腕を掴まれた。そのまま手を彼の口の方へと持っていかされた。
「はい、あーん」
自分で言って口を開けている。実に馬鹿らしいと思うが…。

「待ちなさい、アビス」
きょとん、と外見に似つかない不思議そうな表情を見せた彼に、少しばかり詰め寄る。
「はい。…あーん」
それを聞いた彼の口元がつり上がる。素直に口を開けた。
クッキーから手を離そうとした所で、アビスが突然強い力で腕を引っ張った。
「な…」
オーギュストの指ごとアビスの口腔に入り、彼の舌が、触れた。ぺろりと舐めると、また笑みを浮かべる。
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