main 〜Roman〜

□Bonne nuit.
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唐突にバタン!と盛大な音を立てて開いたドアに、オーギュストは作業の手を止めた。アトリエと家の境目を踏み越えた所で、見覚えのあるマントが向こう側へと歩いていくのが目に入る。
「アビス、こんな時間にどう……」
「寝させてくれ」
少し、疲れたような声。
「家に帰って寝たらどうだ?」
「生憎、それまで持ちそうに無いのだよ。下手をすれば、野宿にな、る…」
言い終わらない内に大きな欠伸。オーギュストは苦笑を浮かべた。
「そんなに眠いのなら、どうぞ。おやすみ、アビスさん」
「あぁ。おやすみ、オーギュスト」

パタン、と寝室のドアが閉まり、アビスは本当に疲れていたのだろう、急に部屋全体が静かになった気がした。

ふと時計を見上げると、日付が変わっている事に気付く。最近作業に没頭していると、時間など意識の外に放り出しているから。
時計の針の音を聞くことさえも、久し振りで、聞き入ってしまった。
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