main 〜Moira〜

□ネクタル
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「今晩は。お邪魔するよ」
唐突にタナトスの元を訪ねたレオンティウスだが、数秒経っても自分を迎えるいつもの怒ったような声が聞こえて来ず、首を傾げた。
「タナトスー?」
名前を呼んでも返事はない。
レオンティウスは首を傾げつつも、タナトスを探すことにした。

「タナトス?ターナートースー?」
あっちこっち部屋を覗き込むが、一向に捜し人の姿はなく。
「・・・・・・何処に行ったんだ?」
こんなに騒いでいればタナトスでなくとも、双子の従者や骸骨が聞きつけて来るだろうに、それも無し。
突き当たりのドアを半ば自棄になって開く。と――

タナトスは部屋の中央に座り込んでいた。
「あぁ・・・・・・やっと見つけた」
「レォンティゥス」
そこで初めて気付いたかの様に自分を見てくるタナトスに、一言文句でも言ってやろうかと大股で近付いた。
「・・・ん?」
そこでふと、タナトスが大切そうに抱えている瓶に気付いた。それを指差して尋ねる。
「・・・どうしたんだ?それ」
「母君ニ戴ィタ」
珍しく少し嬉しそうに微笑を浮かべ、タナトスが答える。

「レォンティゥス」
「うん?」
「φトμハ、子供ダカラ酒ガ飲メナィ」
「あー、確かにそうだね」
彼の言う二人の従者を思い出しながら、レオンティウスは答える。
しかし、それに対する返答は無く、ぽかりと空いた沈黙に、名前を呼んでやる。と、
「・・・レォン、ティゥス」
呼び返された。
「何?」
「折角母上カラ戴ィタ酒ヲ飲ムノニ、一人デハ寂シィ。・・・・・・付キ合ッテ呉レナィカ?」
上目遣いで見上げてくるタナトスに、逆らおうとする方が野暮だ。それにそんな可愛い顔を見せられたら、先程までの苦労も許せてしまうから不思議だ。

「喜んで」
レオンティウスの微笑に、タナトスも満面の笑みを浮かべた。
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