狂想曲

□狂想曲・前編
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シズちゃんが誰かに笑顔を向けるなんて、
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「(何ヘラヘラ笑ってんの?信じらんない)」

止めてよ。
シズちゃんは、

シズちゃんは、俺のなのに。


「!?―――……な、に…?」
ふと心に浮かんだ言葉に、俺は停止する。いや、停止する他無かった。
「(俺…今、何を考えて……?)」
顎に手をあてて考える。その答えとして出たものは、普段の俺としては考えられない、予想外のものだった。

「ふ…。あははっ」
余りにも予想外過ぎて、思わず笑ってしまう。
尚も笑いながら俺は考え続けた。
「(何考えてんの?あり得ないし…。今のなし、……っていうか、ある筈がないから)」
頭の中では否定しつつも、その感情に鼓動が速さを増していく事はまぎれもない事実で。胸の痛みを感じずにはいられない。

「(俺が、シズちゃんの事を……、好き、だなんて…………。まさか?)」
自嘲気味に口角を上げても、そこから発した笑い声は、只の息漏れにしか聞こえない。
ふと目線を上げると、シズちゃんが、その人と話しながら俺のいる方へと向かって来るのが見えた。

「(シズちゃん…)」

今すぐ俺の方を見て欲しい。
俺に気付いて欲しい。
シズちゃんって、名前が呼びたい。
今日は何時もみたいにからかうんじゃなくて、純粋に。
でも、また、このままシズちゃんと顔を合わせたら…。

そんな事が不意にぐるぐると交替に頭に浮かんで、自分が何を考えたいのか分からなくなってくる。
「(取り敢えず、今はちょっと冷静になろう。うん、冷静になれば大丈夫な筈)」
半ば無理矢理に自分を納得させ、俺は近くの裏路地に隠れようと足を向けた。
と。
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