狂想曲
□涙と優しさのわけなんて
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自分だってしたくてした訳じゃないし、と身を起こそうとしたのだが、
一瞬の出来事だった。
ふらついてバランスの取れなくなった腕と身体。必死に支えようとしても重力には逆らえない。
寸でのところで再びダイブは免れたのかと思ったのだが…。
「!っん……!!!?」
何も分からなくなる事なんてあるんだ、と初めて思った。
状況的に説明すると、自分の唇が、シズちゃんの唇に重なっている。温もりが其処を介して伝わってきて、ああ、シズちゃんでも温かい部分ってあるんだ、とか少し思った。
唇を離そうと首を動かすと、唇の先が擦れる。不意に離れた温もりに、再び見えたシズちゃんの顔。
驚きを隠せない彼の表情に対して、自分はどう見えているんだろうか?
そう思っても、いつもの自分の表情は出てくる気配さえなかった。
それよりか。
「(どう、しよう……。シズちゃんの唇、もっかい……キスしたい…)」
頭の中に浮かんだのは、今まで一度も抱かなかった感情。
予想外過ぎた。
唇の感触、温かさ、表情、口を離す時に僅かに漏れた吐息。
その全てに、惹きつけられている自分。
「(いやいや、可笑しいから。だってさ、相手は、シズちゃん…)」