main 〜Marchen〜

□予鈴
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心臓が跳ねあがるかと思う程、バクバクと脈打っている。そんなメルヒェンを見て、王子は更に首を傾げた。
「?どうしたんだい?」
「なッ…何でも、ない」
とは言いつつも、メルヒェンの鼓動はバクバクと煩い程に高鳴っている。今少しでも触れられたら、この嘘は簡単に見破られてしまうだろう。
「体調悪いのかい?風邪でもひいた?」
「いや、そんな事はな…」
言いかけた言葉が止まる。王子が真剣な表情で、メルヒェンの顔を覗き込んでいたからだ。
「だって、顔が赤いよ?熱、あるんじゃないのかい?」
さらり、と王子の手によってメルヒェンの前髪が上げられる。もう片方の手は、メルヒェンの肩にそっと乗せられた。
「(さ…触られてる……)」
そう意識している内に、王子は顔を近づけてきた。静止の声を挟む間もなく、王子の額とメルヒェンの額が触れる。メルヒェンは思わず目を瞑った。身体は緊張して、両手がシャツの裾を強く握りしめていた。
「(顔……近すぎて、目が開けられない…)」
息を呑んでしまってから、呼吸さえろくに出来ない。
額への温もりが離れ、メルヒェンはうっすらと目を開けた。目の前には未だ真剣な表情の王子がいる。何故だか、少し、メルヒェンは安堵感を覚えていた。
「其処まで熱があるようではなさそうだけど……。でも、気をつけて」
「!ぁ……」
王子の手が身体から離れていくのを感じ、メルヒェンは思わず声を洩らした。それを聞いた王子が不思議そうな顔をする。
「?」
「あっ……な、何でもない、から」
「それなら良いのだけど。あ、さっき予鈴の鐘が鳴ってたから、メルヒェンも講義に遅れない様にね。じゃ、また」
そう言うと、王子は元来た道を走って行ってしまう。
その姿が消えるまで見送ってしまった後、メルヒェンは道を右に曲がって歩き出した。しかしその足取りは徐々に早く、そして遂には彼には珍しく、走り出していた。
「(まさか、そんな、王子に離れて欲しくないとか、況してやもっと触れていて欲しいだなんて……如何して…)」
この気持ちは何なのだろうか?
分からないまま、メルヒェンは、ただ、走る。



――――――
この息苦しさで、胸の苦しさを打ち消してしまえれば良いのに
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