main 〜Roman〜

□Le marche
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「ああ、沢山買いものしたねぇ」
どさ、と、テーブルの上に品を置いて、イヴェールはソファに凭れ掛かった。サヴァンも外套等を脱ぎ、その隣に座る。
結局、昼過ぎまで外に居座ってしまった。何時もなら一人で出かけ、散財してはいけないと早々に帰ってしまうのだが、今日はイヴェールがいたからだ。普段見て回らないような店も、彼と話しながら何軒も見て回った。そのまま昼食も一緒に摂った。結果としては何時もより時間的にも金銭的にもロスした事になるが…相手がイヴェールだ。喜んで投げ出そう。
と、隣から視線を感じ、サヴァンは思考を止めてイヴェールの方を向いた。
「どうしたのかね?」
「…サヴァン」
突然がばっと抱きつかれ、サヴァンは目を丸くした。脈絡の無い行動に、鼓動が早くなる。存在を確認するような、強い、強い抱擁。
「このコート着てるより、あったかい部屋にいるより…こうするのが一番温かいね。サヴァン…」
「…ッ」
真っ直ぐに見つめられ、何も言えないサヴァンに、イヴェールがそっと唇を重ねる。柔らかいそこが離れ、イヴェールが微笑んだ。
「今日、一緒に連れて行ってくれたお礼!」
「…え?」
無邪気な瞳の輝きに、腰に回そうとしていた手が止まる。そんなサヴァンを気にも留めずに、イヴェールはソファから立ち上がる。
「じゃ、サヴァン、またね」
「えっ、い、イヴェー…ル…」
全て言い終わらない内に、慌しい足音はドアの向こうに消えていった。

静かな部屋に一人残されたサヴァン。
「…一体、どうしろというのだね…」
口に己の手を当て、黙り込む。
今度はサヴァンが顔を赤くする番だった。



―――― Le marche
(市場から、始まる物語)
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