□君のため
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君のため






「…九郎さん…っ…助けてっ…」


その言葉を聞いたとき、僕の中で何かが崩れるように弾けたのを感じた。

愛する者を…九郎を失った彼女の傷を癒すのはいくら時間を待っても無理だと思った。

それだけの時間が流れる前に、望美さんの心が壊れてしまう…。

夜な夜な声を押し殺すように涙を一人流し続ける少女を…ほっておくことなんてできるわけない。

それだけじゃない…亡き親友の恋人を…僕自身が想いを寄せる人を…ほっておけない。

新たなる罪を重ねることとなっても構わない…それで、彼女の慰めになるのなら…。

だから…僕は君を愛します…九郎の代わりとして…。


「望美さん……本当は泣きたいのでしょう?」

「…!!」


彼女が必死に強がり隠している本音を僕が言ってやり、すべてを曝け出させてあげようと思った。

自分の気持ちをなかなか曝け出せない彼女は押し黙って俯いていた。

望美さんは九郎と同じでとても素直な人だけど、時々とても頑固で頑なだ。

白龍の神子として勇敢に華麗に戦に出向いていた彼女だけど、僕よりもずっと年下の少女なのだ。

悲しければ涙を流し、嬉しければ花のように微笑む普通の少女。

泣かせてやりたい…涙を流すぐらい人間誰だって自由だろう、押し殺すことなんてない。

僕は彼女に優しく声を掛けた、労わるように、そっと心を解きほぐそうと。


「君は頑張りすぎですよ…」


そう告げると彼女はそんなことないと首を左右に振る。

人の頑張りなら良く見えても、自分の頑張りなんて自分ではなかなか見えないものだ。

望美さんが自分のことを否定しても、僕は知ってます。君が…頑張りやで…だから追い詰めてしまう所があることを…。

そして続けて僕はこう言った、君の心を救う為に…。


「もう…我慢しなくていい…強くあろうとしなくてもいいんですよ…」


きっと自分ではない誰かにそう言ってもらわないと、彼女はこの先もずっと苦しみ続けただろう。

次第に彼女の美しい翡翠の瞳からは涙が溢れ零れていく。思わず見惚れてしまうぐらい、零れ落ちる涙は綺麗だった。


「言ってください…君の気持ちを…」


僕が優しく促すと彼女は少し戸惑った後、口を開いた。

小さな細い身体が震えていた…声も裏返りそうで、か細くて…それでもゆっくりと言葉を紡いだ。


「頭では…頭ではちゃんと…わかっているんです…九郎さんはもうどこにもいないって…でも…でもっ…」


でも、心がついていかない…多分彼女はそう言いたかったのだろう。

彼女の言葉は嗚咽と涙のせいで途切れてしまったから。

やっと聞けた彼女の心はぼろぼろで、支えてあげなければ今にも崩れてしまいそうだった。

毎晩、声を殺して泣き続ける彼女をどうにかして慰めてやりたかった。

それが、たとえ九郎の身代わりだとわかっていても…。僕はそっと彼女を押し倒した。

望美さんは僕の想い人だ。

触れたいと…思ったことはあるけれど、彼女は九郎の恋人だったから優しく見守っていた。

だから、こんな形で彼女に触れることとなるなんて…この腕に抱くことになるなんて思っていなかった。

唇を重ねると、彼女は一瞬何が起こったのかわからなかったみたいで抵抗もしなかった。


「弁…慶…さん…?」

「…今は…僕を九郎だと思ってください」

「え…?…んっ」


戸惑う彼女に僕は再び唇を重ねた。

こんな形での口付けなのに、愛する人との口付けは甘美なものだった…。


「やっ…だめ…弁慶さん…!」

「僕を九郎と思えばいい」


君のためなら僕は今、この時を九郎として君を抱く。

惨めさ…もちろんそんなこと…、自分と身体を重ねながら他の男のことを重ねられるなんて…。

でも、望美さんの慰みに少しでもなれるなら……構わない。


「弁慶さん…!」

「…望美」


びくっ!


『望美』と僕が声を落としながら呼んだ瞬間、彼女の身体は大きく反応した。

僕自身は意識したつもりはなかったけれど、彼女は九郎に名を呼ばれたように感じたのだろう。

固まってしまった彼女の顎に手をかけて、唇を寄せた。そして再び口付けると彼女は拒まなかった。


「んっ…ぁ…」


何度も何度も啄ばむような口付けをした。

愛する人との口付けが僕を酔わせそうだったけど、それは何とか理性で耐えた。

欲望のままに彼女を抱くなんてしたくない、これは慰めのための行為なのだから。


「望美…望美…」


何度も何度も名前を呼んでやれば、いつの間にか彼女の反応が変わってきた。
  
拒んでいた口付けを拒まなくなり、まるで求めてくるような仕草まで見せた。


「……九…郎さんっ…九郎さん…」


自分がそう仕向けたのに、彼女が僕を九郎と呼んだ瞬間酷く心が痛んだ。

胸が押しつぶされそうな…そんな感じだった。

彼女が九郎を重ねて、自分を求めることがこんなに苦しいなんて…。

わかっていた、覚悟はしていたはずなのに脆くも崩れ落ちる。

自分の耳を塞いでしまいたくて、言葉を発せないように絶え間なく口付けを繰り返した。

そろりと腰紐を手にかけ、襦袢の袷を少し強引に押し広げた。

途端に露になった、まるで雪のように白い染み一つない肌に目を奪われた。

剣を振るっていたとは思えないほどの華奢で細い身体。


「綺麗です…」

「やっ…見ないで…」


腕で胸を隠そうとする彼女の手首を掴み床に押さえつける。

女性である望美さんの抵抗など、男の僕にとっては儚いものだった。


「隠さないでください…」


彼女は顔を真っ赤にさせて視線を僕から逸らすと、ぎゅっと目を閉じる。

二つの膨らみの包み込むように手で覆い揺らして、先端を弄ると彼女は嬌声を上げた。

思わず緩んでしまう口元を抑えつつ、胸に顔を寄せて彼女の弱いところ探る。


「あっ…あぁ…」

「可愛い声ですね…もっと聞かせてください…」


首を振り、声を抑える彼女が可愛くてしかたなかった。

彼女の片足を掴み、僕の肩に抱え上げると彼女の花園が露になった。

女性と身体を重ねることは初めてではなかったけれど、まるで初めての時の様な…そんな気持ちになるぐらいに胸が高鳴った。


「やっ…!!やだっ…こんな格好っ…」


花園はすでに濡れていたがまだ十分とは言えなくて、慣らすように何度も指で愛撫をする。

戸惑うようにぴくっと反応して、甘い声を上げる望美さんは今だけは僕のものだ…。

この契りはたった一夜だけ…それでも愛する人を抱ける喜びと、自分を見えもらえない悲しみが滲んでくる。

彼女は次第に押し寄せる快楽に耐え切れなくなったのか、意識を朦朧としたように目が定まっていなかった。

その間に自分の纏っていたものをすべて脱ぎ捨て、膨張したものを彼女の花園に押し当てた。


「ぁ…」


正気に戻ったかのように瞳を見開いた望美さんが不安げな顔をした。

流されるように快楽に身を任せていた彼女だったけれど、さすがに一線を越えることだけは躊躇ったようだ。

待って…と懇願してきたけれど、今更止められるわけなかった。

この時の僕は…もう九郎の代わりということも忘れて、ただの武蔵坊弁慶という男だった。

愛する人を抱きたいという、その気持ちが抑えきれなかった。

僕は彼女の言葉を口付けで塞いだ……そして…。


「…っ!!!ああぁっ!」


力任せではなかったけど少し強引に彼女を貫いた。

彼女の瞳からはずっと涙が流れていてけれど、さらに溢れるように涙が滲み褥に染みを作った。

あまりの狭さに違和感を覚えて、繋がった場所に視線を向けると一筋の血が流れていた。

それには僕も素で驚いてしまった。ちゃんと慣らしたし、それほど無理やりに進入したつもりはない。

つまり、当てはまるのは一つの事実…。


――…そうですか…九郎は彼女を抱いていなかったんですね…。


真面目な九郎のことだ、祝言まで彼女に手を出せなかったのだろう。

愛する人の初めてを奪えた…なんて、とてもそんな気分にはならなかったし、嬉しさりも、悲しさが勝っていた。


「っ…ん……いたっ…」

「…力を抜いてください…」


耳元でそう囁いても、彼女は痛みに涙を流して荒い呼吸を繰り返すだけだった。

それならば…、と僕は腰をゆっくりと揺らし始めた。


「あっ……んんっ…」


しばらくは、痛いと泣くだけだった望美さんだったけど、いつしか泣き声とは違う声を出し始めた。

甘い声を上げ始めたのを確認して、僕は笑みながら何度もそれを繰り返す。

彼女の弱い所を見つけると、そこを重点して押し上げて腰を揺さぶった。


「やっ…いやぁ…」

「…っ…痛くないでしょう…?」

「……弁慶さんっ…」

「…今は…九郎だと思いなさい…」

「んっ…だめ…だよ…こんな…の…っ」

「望美…」


名を呼ぶとピクリと彼女は反応した。

そう…それでいんです。僕を九郎だと思って…、僕に九郎を重ねていいんです…。

僕の想いが実ることはきっと…この先、永遠にないんだろう。

それでもいい、報われなくても、罪をいくら背負っても…君が泣き止んでくれるなら、笑ってくれるなら僕は幸せだから。


「…いいんですよ…僕を…利用しても…」

「そん…な…っ…ぁ…」


彼女の言葉を封じ込めるように、薄く開いた唇から舌を差し込んで絡ませた。

すべてが甘い…そう思った。快楽に溺れさせ、言葉を紡げないようにするのに時間は掛からなかった。

行為は一度で良かったはずなのに、彼女を何度も求めてしまう自分に苦笑した。

性急になってしまった行為に果てて、意識を飛ばしてしまう寸前に望美さんは言った。


「…弁慶さん…ごめんなさい…」


彼女はそう言い、意識を手放した。


――どうして…どうして君が僕に謝るんですか…。

謝るなら僕の方だ…、君の気持ちを利用して、こうして身体を重ねて…。

罪を背負いすぎている僕には清らかな君には見合わない。

どうして死ぬのが九郎ではなくて、僕にしてくれなかった…。僕にはそれでけの咎がある。

戦が終わっても生き残ってしまった僕にできることは、ただ愛する人の幸せを願うことだけだ。






END







加筆修正いたしました。
書いたのが昔過ぎて、酷かったので…。
少しはマシになったかと思います。
 

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