□愛しているのは貴方だけ
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いつからだろう…いや、初めかだったのかもしれない。

夫婦となった時から、いつか彼女が離れていくのではないかと不安だった。

出遭った時はただの少女だと思っていたのに、いつしかこんなに愛しく想うようになってしまっていた。

だから、耐えられない。

君が他の男と想いを交し合うのが…僕から離れることが……許せなかった。

いつからだろう…。

もし…いつか望美さんが僕の元を離れてしまうなら……敵わないなら想いならいっそ、奪って壊してしまおう。

…そんなことを考えてしまった。

もちろん、そんなことにならなければいいと…思っていた。

僕が一人京に帰っている間、風の噂を聞いた。


『熊野別当が妻を娶ったらしい』


この話を聞いた時、背筋が凍りそうな気がした。

何かの冗談だと……そう言ってほしかった。

僕は無我夢中で熊野の彼女の元へ帰った。

別当邸に着くと、また平家の残党が現れたためヒノエは潮岬に行っていると聞かされた。

すぐに望美さんに会いたいと、そう思った。

けど…ここは別当邸。

別当であるヒノエの命により、僕が望美さんに会うことは禁じられていた。

だから……夜、周りに気がつかれないように彼女の寝所へと忍び込んだ。

彼女を奪うために。








****








「いやっ…やめて…」


組み敷かれ、暴れる望美の手を弁慶が押さえつける。

当然、女の望美が男の弁慶の力に敵うわけない。


「望美さん…」

「いや…いや…誰かっ……助けて…」


今、望美の目の前にいるのは愛した男性ではない。

普段からは想像もつかない憎悪と、男の力を奮う脅威だった。

こんな弁慶は、望美が愛した弁慶ではない。


「…ここには誰も来ませんよ…離れですからね…」

「や…めて…弁慶さん…」


恐怖で涙を流す望美を見ながら、弁慶は思った。




あぁ…、僕は壊れてしまったのかもしれない。


あれほど、守りたいと、愛しいと思った人を自分が泣かせている。


それでも、彼女を自分のモノにしたいと思ってしまう。


彼女をこの腕に抱きたいと思ってしまう…。


他の男の跡を…全部、僕の跡に変えてしまいたい。




組み敷かれた褥の上で望美は震えていた。

だが、弁慶は気にとめる様子も見せず望美の単の襟を力を込め、左右に大きく開いた。


「いや!いやぁ!!」


隠すものが無くなり、胸元が露になる。

見られている弁慶の視線を感じて、望美は顔を逸らしてぎゅっと目を瞑った。


「………」


弁慶の手が止まった。

そして、ぐっと唇を噛み締めた。

望美の胸元に…いや、全身に赤い、紅の跡がうっすらとだが散らされていた。

ヒノエのつけた跡。

他の男に抱かれた証拠。


「…君の肌は白いですね……」


…だから、余計に目に映る。

その白い肌に散らばる紅の跡が……。


「や…っ…べんけ…さ…ん」

「君のその肌も…全部、全部僕のものですっ…」


まるでヒノエのつけた跡を塗り替えるように、弁慶は望美の肌に口付けを落としていく。


「っ…!」


望美は恥ずかしさから固く目を瞑り、声が出ないように口を閉ざた。

自分のものだと所有印を付けるように、弁慶はいつまでも口付けを止めなかった。

次第に望美の瞳から溢れる涙が頬を伝い、褥に落ち染みを作った。


「望美さん…」


涙を流し、怯えた瞳で僕を見つめる彼女。

僕の愛しくて堪らない唯一の女性。

優しくて、責任感が強くて……それゆえにヒノエの怪我のことで自分を責めてしまった。

それはわかっている…。

けど…わかっていても…僕は、君を手放すなんてできない。

わかっているのに……ヒノエに身を委ねた君を……許せない。

好きなんです…本当に君のことが…。

だから……無理矢理、君を組み敷く僕を許してください。


「…君はまだ幼いと思っていましたが、身体は十分大人みたいですね…?」


弁慶の言葉がさらに望美の羞恥を誘う。

少し未成熟さを残す華奢な身体。
 
見入るように見つめると、望美は嫌だと身を捩らせる。

それを裏切るように弁慶は望美の単の腰紐を解き、肌を空気に晒した。


「いやっ…見ないで…!」

「望美さん…僕が今、どんな気持ちで君を押し倒しているかわかりますか?」


望美は答えない。


「君が好きですよ……けどっ…!」

「やっ!!」


グッと、力強く胸を握るように掴まれ、望美は顔を歪め声を上げた。

何も遮るものなく、直に胸に触れる弁慶の手が恐ろしく感じた。


「…君を愛して止まないけど……憎くて仕方ない…!」

「あっ、痛っ!」


胸の飾りに唇が寄せられたかと思ったら、少し強めに噛むように口に含まれた。

初めての感覚に、快楽なんてものはなく恐怖だけだった。


「やっ…いやぁ…」

「…ヒノエはどんな風に君を抱いたんですか?」



初めは…出会った時は自分がこんな気持ちを感じるなんて間違いだと思った。


軍師として利用しようと思っていた、少女を愛してしまうなんて…。


でも、彼女が他の男と仲良く喋っている姿を見るたびに心が酷く痛んだ。


そして自覚した、彼女が好きなんだと。


死ぬ覚悟だった僕を救ってくれた彼女。


僕の妻になると、傍にずっといてくれるとそう言ってくれた彼女。


けど……君は僕から離れて、ヒノエと契りを交わした。


「はい、そうですか」と手放せるほど、軽い気持ちではないんです。


君が僕の傍から離れてしまうなんて耐えられない。


優しい君はきっと僕の元には戻ってきてくれない……わかっているんです。


それでも僕は君を求めずにはいられない。


いっそ壊してしまおう。


結果が絶望しか残らなくても、彼女に嫌われてしまっても………君が傍にいないなら同じだ。





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