□愛しているのは貴方だけ
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どうしてこんなことになってしまったんだろう。

平家との戦が終わり、大好きな人と祝言も挙げて、幸せだった。

弁慶さん…短い間だった貴方と二人で五条で過ごした日々。

とても、とても幸せだった。

だから…今の自分の状況が信じられなかった。

肌を露にされて、自分を組み敷いている人。

それがあの弁慶さんだなんて信じたくなかった。

見つめてくる視線は氷の様に冷たくて、どこか欲望が入り交じっている。

怖い…。

こんなに男の人が…弁慶さんが怖いと思ったのは初めてだった。


「や…だぁ…べん…け…さ…」


耳元で吐息がかかるように、酷く甘い言葉が囁かれる。

これがちゃんと夫婦としてだったらどんなに幸せだったんだろう。

でも今は絶望にしかならない。


「…好きです…好きだ…」

「っ…お願い…やめ…て…」

「…どうしてですか?…こんなに身体は素直に感じてくれてるのに…」


スッと男性にしては細い指を花園へと触れた。

そして戸惑うことなく身体の奥へと侵入してくる。

その刺激に望美は大きく身体を震わせた。

心は嫌だと思っているのに身体は与えられる愛撫に反応し、男を受け入れる準備がされていく。


「…もうこんなに濡れていますよ?」


まるで見せつけるように、蜜の絡みついた指を望美の視界へと映させた。

かぁっと望美の頬が赤くなり、顔を逸らした。


「…さぁ…そろそろお喋りの時間は終わりです。君と…一つになりたい」

「ぇ…い、いやぁ!」


ぐいっと膝裏に手を差し込まれ、脚を抱え上げられる。


「やだっ…弁慶さんっ…」


夢があった。

元の世界にいた頃からずっと描いていた夢。

素敵な男性と出遭ってお互い恋に落ち、結婚して子供にも恵まれて、一緒に年を重ねていく。

ありきたりなことかもしれない。

でも、すごく素敵なことだと思っていて、ずっと夢見ていた。

弁慶さんとの出遭いは、私がずっと描いてきたものとは違った。

だって、異世界に来ることになるなんて想像もしてなかったから。

描いていた甘い出会いでもなく、描いていた新婚生活でもなかったかもしれない。

それでも、思い描いていたものよりもずっと幸せだった。

きっと、この幸せがずっと続く…そう思っていたのに…。

今、私に覆いかぶさっている人は…その弁慶さんなんだ…。


「ふっ…ひくっ…こんなの…弁慶…さんじゃないっ…」

「…君が思っている僕は、本当の僕ではありませんよ……僕は本当は全然優しくなんてなく、嫉妬深いただの男です…」

「そんなことな……っ!?…いっ…やぁぁ!!」


悲痛な望美の声が室内に響き渡る、しかしそれに気付く者はいない。

無理やり押し入るように身体を貫かれ痛みがはしり、望美は顔を歪めた。

初めてではないが、ヒノエとの交わりの数えられる程度。

まだ身体は男と交わることを慣れてはいない。


「っ…ひくっ……酷いっ…」


瞳から止まることのない涙が零れ落ち、頬を伝う。

弁慶はその涙を拭うように、目尻に口付ける。

まるで許しを乞うように、頬、瞳、唇へと口付けを繰り返した。


「…酷いのは君ですよ……僕を裏切った…」

「っ…!」


そう言われて、返す言葉は見つからない。


「…今宵は…僕の気がすむまで付き合ってもらいます」

「っ…ぁん…やぁ…!」


その言葉通り、弁慶は望美の身体を蹂躙した。

休むことを許さず、快楽を与え続けた。

息もできないような激しい口付けを交わし、望美が息ぐるしさを感じて胸を叩いてきた時に解放してやった。

ヒノエに刻まれた紅の跡を、自分の跡に塗り替えるように散らした。


「やっ…いやぁ…」

「…愛しているんです…君を…」



まるで言葉とは正反対の一方的な行為。


その夜、私がどんなに泣いて嫌がっても弁慶さんは止めてくれなかった。


一晩中…私の意識が無くなるまで、抱き続けた…こんな一方的な行為はとても受け入れられるわけなかった。


弁慶さんのことは好き、愛してる…でも私もうヒノエ君の妻…。


お互いの気持ちが交わらないで、こんな風に抱かれるなんて……悲しくて、辛くて…。


でも、何よりもそれほど弁慶さんを傷つけたのは私…。


すべては私のせいなんだ……。








* * * *








翌朝、望美が目を覚ますとそこに弁慶の姿は無かった。

汗にまみれている筈の身体は綺麗に拭われていて、単の整えられていた。

辺りを見渡すと、枕元に一通の文が置かれてあった。

以前の望美ならこちらの世界の文字など読めなかったが、弁慶の妻となった時に朔に教えてもらってためになんとか読むことができた。

その文にはこう綴られていた。




『ごめんなさい…愛してます…』




読み終えると、望美はその文を胸に抱え込んで涙を流した。






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