裏
□愛しているのは貴方だけ
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わかっていますか?
僕がどれほど君を深く愛しているか。
君のことは誰よりもわかっているんですよ、それだけ僕は君しか見えていないから。
だから…君の嘘は簡単にわかってしまうんです。
君がどんなに言葉で僕のことはもう愛していないと言っても、瞳がそう言っていない。
君はとても優しい人だから…優しすぎるぐらい優しい人だから…。
だから、君が僕じゃなくて"彼”を選んだことはわかります。
でも、僕はそれで納得なんてできない、僕はもう君を手放す事なんてできない。
君を…愛しているんです、他の誰でもなく君だからこんなに深く愛してしまった。
君が他の男のものになるなんて考えただけで気が狂いそうだ…。
どうすれば…君に僕の想いが届きますか…?
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新婚旅行ということで熊野へやって来た望美と弁慶は龍神温泉へ来ていた。
今まで戦い続きや、戦の終わった後は薬師として忙しかったこともあって、長旅の疲れをゆっくり落とそうという意味もあった。
かつては八葉の仲間たちと来たことも記憶に新しい。
あの頃は心休まれる状況ではなかったが今は本当に心からゆっくりとできる。
望美は温泉に浸かりながらあの頃の事を懐かしんでいた。
…そういえば、ここでヒノエ君とは初めて会ったんだよね。
熊野組といえば、望美の旦那様である弁慶と八葉で笛の名手である敦盛と真っ赤な髪が印象的で、弁慶の甥でもあるヒノエだ。
折角、熊野に来ているのだから久しぶりに会いたいという気持ちもある。
けれど、これを弁慶の前で言うと機嫌を損ねてしまうので言えない。
望美としては自分が弁慶以外を見ることは絶対ありえないこと。
なので、ヒノエ達とも普通に会いたいと思うが、祝言を挙げてからわかったことだが弁慶はかなり独占欲が強いようだ。
嫉妬してくれているということは、それは自分をとても好きだと、愛してくれているということ。
だから嬉しく思うが、やっぱりたまには会いたいものだ。
神出鬼没なヒノエのことだから、わざわざ望美が会いに行かなくても向こうから会いに来てくれるかもしれないが。
しかし、そんな彼も今では熊野別当として立派になっていることだろう。
望美たちと旅をしていたころから別当ではあったが、本来別当があのようにうろうろしていいものではないだろう。
…そういえば、弁慶さんの甥ってことは…私とは親戚ってことになるんだよね。
会いたいと思った。
これは純粋にかつての仲間としての気持ちだ。
もとの世界に帰ってしまった幼なじみとはもう二度と会うことは敵わない。
しかし、こちらの世界にいるかつての仲間たちとは会えるときには会いたい。
…弁慶さんに言ってみよう、ヒノエ君に会いに行きたいって…。
一つ、言えることは望美に罪はない。
そして、弁慶にもヒノエにも罪はない。
この時の判断は間違っていたものではない。
何故なら望美には仲間に会いたいという純粋な気持ちしかなかったのだから。
誰もが、この先起こる事なんてわからなかったのだから。
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熊野―――別当邸。
「棟梁」
胡坐をかき、少しボサボサの赤い髪を掻きながら「棟梁」と呼ばれた青年は振り返った。
「なんだ?」
「烏からの報告です、平家の残党兵が熊野をうろついているらしいです」
「ああん?そんなこと、珍しくないだろ」
「いや…それがどうも動きがおかしく見張っていたら、弁慶殿と白龍の神子様のあとをつけているようなんです」
「弁慶と望美の…?」
そもそも二人がなんで熊野にいるのか疑問に思ったが、それどころじゃない。
「二人は今どこにいるんだ!?」
「えっと、龍神温泉です」
「悪い、ちょっと出掛けてくるぜ!」
「棟梁!お仕事が…!」
「任せた!」
任せたって…そんな無茶な…。
出掛けてしまった主の後姿を追いながら、鳥は溜息を吐いた。
運命の歯車が回りだすのはあと少し…。