短編

□拍手
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◆拍手・その2






五条には、おしどり夫婦として有名は年若い夫婦が暮らしている。



「弁慶さん!」

「はい?」


何時もにもまして、ご機嫌の妻を怪しく思いながら弁慶はいつも通り答えた。


「どうかしたんですか?」

「またまた〜、今日楽しみにしてますね!」

「??」


…楽しみにしている?

何のことだか分からず、弁慶は首を傾げた。

何か彼女と約束でもしていただろうか…。



何の事だか分からないといった弁慶を見て、望美は少し声を低くした。


「…弁慶さん、本当に分からないの?」


うっ…と申し訳なさそうに弁慶は望美に顔を向けた。


「はい…すいません、何か約束でもしていましたか?」

「…ヵ…」

「え…?」


望美の声が小さく聞き取れない。


「弁慶さんの馬鹿!!」


今何て言いましたか?っと弁慶が尋ねる前に望美はそう言い放ち出て行ってしまった。

一瞬ポカンとした後、慌てて望美を追いかける。


「の、望美さん!!待ってください!」



バタバタ…




弁慶は家から飛び出し走り去って行った望美を追いかける。

何しろ、望美は足が速いので弁慶も必死だった。




「待ってください望美さん!!」

「弁慶さんの馬鹿馬鹿!!来ないで!」

「…っ!」


いくら足が速くても男の弁慶に望美が適うはずもなく、しばらくするとに追いつかれてしまった。

そして逃げられないようにしっかり手を取られてしまった。


「…望美さん」

「離してください!」

「離したら君は行ってしまうでしょう?」

「…」

「教えてください…僕は何を忘れているんですか?」

「…約束」

「え?」

「弁慶さんが大事な約束を忘れてるからです!!」

「大事な約束…」


そんな大事な約束したかと頭を巡らす。

望美とはしょっちゅう何かしらの約束をしている気はする。

例えば、週に一度は必ず定休日を取るようにとか…。



「…あっ!!」

「思い出しましたか?」


少し怒った口調の望美。


「ええ…思い出しました」


それは一週間前にした約束。

今度、一緒に花見に行きましょう…と。

その今度と言っていた日は今日だ。


「すみません…うっかりしてました」

「もう、本当ですよ!弁慶さんが誘ったのに!!」

「すいません、機嫌を直してくれませんか」

「…しょうがないですね」


これでゆるしてあげます…と望美は弁慶の耳元で囁き…


ちゅっ


頬に軽く口付けた。


「…っ…」


自分からしたのに望美は頬を真っ赤に染めた。

弁慶は一瞬驚いたが、すぐにいつもの笑みを見せた。


「ありがとうございます、望美さん」

「今度は忘れないでくださいね」

「はい」


そして二人は仲良く手を繋ぎ家に戻っていく。






END
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