短編

□二人の時間
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太陽の光に映える美しい黄金の髪、まるで吸い込まれるような青い瞳。

その容姿は豊葦原では異形なものとして捉えられた。

橿原宮に仕える者達も、その姿を不気味に思う者は少なくなった。

しかし、那岐はそうは思わなかった。

初めて千尋と会った時から、その美しさに目を惹かれたのだ。

どうして千尋を異形として恐れるのか分からなかった、こんなに綺麗なのに…と思わずにはいられなかった。

中つ国が滅んで、異世界では千尋は笑うことが多くなった。

生活にも馴染んで、元気に楽しそうに暮らしていた。

千尋には中つ国にいた頃の記憶が失われていたが、それで良かったと那岐は思った。

辛い記憶だ、忘れてるならその方がいいと、むしろ思い出さないことを願った。

しかしこれは中つ国の二ノ姫としての千尋の宿命なのだろう、再び豊葦原に戻ってきた。

戻りたくないと思っていた那岐にとって、頭を抱えることだった。

それも千尋のことを思ってのことだ。

これから千尋は大変なことに巻き込まれていく、変えることのできない宿命だ。

それでも千尋が選んだ道なら、那岐は付いていくまでだ。

大切な、愛しい少女を守るために、その為に戦うのだ。

訪れた平和も、王となった千尋には安息を与えてくれない。

だからこそ、自分が傍で千尋を支えていきたいと願うのだ。








* * * *










「千尋」


橿原宮の自室にいた千尋の元へ、寄り道をすることもなく真っ直ぐ那岐はやって来た。

何だかんだで、風早に自分の気持ちを話したことが心にゆとりを取り戻してくれた。

今ならちゃんと千尋と向き合える気がした。


「…那岐」


王の衣装を身に纏い、窓辺で外を眺めていた千尋は掛けられて声に反応して視線を向ける。

どこか憂い帯びた顔の千尋に、どくんと那岐の胸が高鳴った。

軽く首を振って、湧き出てきそうな欲望に枷をかける。

今は話すべきことがあって来たんだと。


「千尋、話したいことがある」

「うん…私も」

「何?千尋が先に話していいよ」


こういう時は後の方が望ましいのだが、那岐に口で勝てる気はしなく千尋は少し考えながら話し始めた。

ポツリ、ポツリ、と紡がれる言葉に那岐は耳を傾ける。

その声はどこかか細くて震えている気がした。


「あのっ…ね…、那岐は…私のこと…好き…?」


不安げにそう聞いてくる千尋に、抱き締めたい衝動に襲われるがそれを押しのける。

好きか嫌いかなんて聞かれたら、即答だ。


「好きだよ」

「っ…!」


ボッとまるで湯気でもたちそうなぐらい顔を真っ赤にしている千尋に思わず那岐は苦笑した。

恋人同士だというのに、何当たり前のことを聞いてくるかと眉を潜めた。

誰が好きでもない女と恋人になったりするものか。

なぜ気持ちを疑われているのかと、那岐は不満有り気な顔で千尋を見詰めた。


「何、何でそんなこと聞くの?」

「えっ…あ…別に…」

「別に何もないならそんなこと聞かないだろ。言いなよ、思ってること全部」


どこか責めるような口調の那岐に、千尋は涙を滲ませて睨みつけた。


「っ…な、那岐が私を避けてるからじゃない!!」


そうだ、確かに最近那岐は少し露骨に千尋を避けていた。

千尋も気付いているだろうとは思っていた。


「…悪かったよ、ごめん」


避けていたのは故意だから、ここは素直に謝っておこうと那岐は頭を下げた。

しかし、ご立腹な様子の千尋は瞳から涙を零し始めた。

それには那岐もぎょっとした。


「っ…千尋!?」

「馬鹿っ!!何で謝るのよ!」

「は!?」

「そんなに簡単に謝るぐらいなら最初から避けたりしないでよぉ……寂しかったんだからっ…」


止まることなく流れる涙。

手で顔を覆いながら嗚咽を零す千尋。

那岐が千尋を避けていたのは、理性を抑えるため。



――こんな風に…泣かせたかったわけじゃない…。



「千尋…」


そっと千尋に近づき、涙に震える身体を包み込むように抱き締めた。

触れれば嫌でも感じてしまう、華奢なその身体を。

泣き止んでくれるように、何度も頭を撫でてやった。

しばらくそうしている内に、次第に嗚咽が途切れていった。

王なのにみっともなく泣いてしまったことが恥ずかしいのか、千尋は那岐の胸から顔を上げない。

それに気付いた那岐は笑みを零しながら、そのままの状態で耳元で囁いた。



「早く結婚したいな」



千尋は聞き違いかとバッと顔を上げると、那岐と視線が合って頬を赤色ずかせた。

結婚はしたくてもお互い忙しくてできないのが現状だ。

でも言葉に出すことで、互いの想いを確認し合う。

那岐は、これからもずっと傍で千尋を支えていきたいと想いを伝えた。

恥ずかしそうに、そして嬉しそうに笑みながら千尋は少し伏せ目がちに、ポツリと呟いた。



「…私も那岐とずっと一緒にいたい…」



抱き締められていた腕が解かれたと思うと、さっきまで千尋の腰に回っていた手が顎に捉えられた。

え?と千尋が顔を上げると唇に温かい感触が広がっていく。



「ん…」



瞳を閉じて、久しぶりの口付けに酔いしれた。


お互いに離れるのが名残惜しくて、何度も離れては再び唇を触れ合わせた。


この幸せをずっと手に入れることができるなら、もう少し、結婚がお預けになっても我慢できる。


二人で過ごす時間はどんなものにも変えられない愛しいもの。








END








「ねえ、那岐」

「ん?」

「私、早く結婚できる方法考えたの!」

「…(嫌な予感がするけど)何?」

「子供が出来たら、結婚できるんじゃないかな!」


せっかくの那岐の理性を素で崩してしまう、千尋ちゃん。
二人が結婚できる日は早そうです。



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