短編

□貴方へ
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今日は二月十一日。

僕の誕生日。

この世界では年の初めに皆、年を重ねる。

だから去年のこの日は誕生日だということはすっかり忘れていた。

望美さんから「何か欲しい物はありますか?」っと問われてもきょとんとしていたのが懐かしい。

「君が欲しい」…と言うとあっさり断られてしまったが、今年も僕が欲しいものは他に思い浮かばない。

夫婦になっても、僕はいつだって君が欲しくて、傍にいてほしいのだから。







貴方へ









神子としての役目を終えた後、望美は元の世界には戻らずこの世界に残った。

そう、最愛の人と共に生きる事を望んだから。

そして今日はその最愛の人の誕生日。

去年は、「何か欲しい物はありますか?」っと聞くと、

即答で「君が欲しい」っと返ってきた。

結局弁慶には勝てず、去年はそのまま押し切られてしまったことは言うまでもない。

だから今年は本人に欲しい物を聞くのではなく、先に用意しておこうと思った。

しかし、何をプレゼントしようと考えていたところ、最高の贈り物が舞い降りてきたのだった。






●○●○






「望美さん」

「はい?」

「今年は何かくれないんですか?」


そろそろ、日も落ちてきた。

五条で開いている診療所も閉め、弁慶は居間で休息している望美に尋ねた。

朝起きた時に、「お誕生日おめでとうございます」とは言われた。

だから誕生日を忘れているわけではないのだろう。

だけど、彼女から贈り物は貰っていない。

誕生日には何か贈り物をしてお祝いするんですよ、っと教えてくれたのは彼女だ。

だから、去年のように何かくれると思っていたが夕刻になってもその気配はなく、すこし気になり聞いてしまった。



「あ、今年はその…」


少し何か戸惑うような望美に弁慶は目を細めた。


「僕、欲しいものがあるんです」


望美が何か言葉を発する前に弁慶が口を開いた。


「君が欲しい」

「弁慶さ…」


ジリジリと次第に弁慶は望美との距離を縮めていく。


トンッ


壁まで追い詰められ、顔の両側に手を置かれ逃げられないようにされる。


「君が欲しいです…」

「…弁慶さん」

「誕生日は何か贈り物をくれるんですよね?君をください…」


弁慶はそっと軽い口付けを望美に送った。


「…愛してます」


そっと望美の耳元で囁くと、再び口付ける。

そして望美を押し倒し、ごそっ…と腰紐を解こうとすると


「駄目…」

「どうして…?」


望美は身体を起こし、弁慶の手を取った。


「望美さん…?」


そして…その手をそっと自分のお腹に重ねた。


「…」


弁慶は一瞬言葉を失った。


「望美さ…」

「…私からの贈り物です」


そう言うと、彼女は少し頬を赤らめにっこり笑った。

まだ膨らみもほとんどないが、確かな命の温もりを感じた気がした。


「っ…」


たまらず、僕は彼女を抱き締めた。


「弁慶さん…?」

「…いつ…」

「え?」

「いつわかったんですか…」

「えっと、一週間ぐらい前に…」


僕は彼女を抱き締める腕に少し力を込める。


「どうしてすぐに教えてくれなかったんですか…」


何かあったらどうするんですか…っと弁慶は耳元で囁いた。

抱き締められていて、弁慶の顔をうかがうことはできなかった。


「…ごめんなさい、今日、言いたかったんです…」


怒ってますか?と尋ねると、弁慶は望美を離し、瞳を合わせた。

どこか涙ぐんでるような気がしたのはきっと気のせいじゃない。


「怒ってませんよ…ありがとう望美さん…最高の贈り物ですよ」


再び弁慶は望美を抱き締めた。

優しく包み込むように。


「弁慶さん大好き…生まれてきてくれてありがとう…」




END

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