長編

□永遠の誓い
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「……ぇ」


望美は一瞬弁慶が何を言ったのかわからなかった。


目を見開き、固まっている望美に弁慶は再度言葉を口にした。


「望美さん僕と一緒に暮らしませんか?」


「…え?」


望美は弁慶の言葉に驚きを隠せない。


「君は…この世界に残ると決めたのでしょう?」


驚く望美とは裏腹に弁慶は淡々と続けた。


「なら、いつまでも景時たちの世話になっているわけにはにいきませんよね」

「ぁ…」


そう、いつまでも景時や朔の世話になるわけにいかない。

この世界に残るのであれば、何らかの形で自立して生活をしていかなくてはならない。

しかし、この世界で生まれ育ったわけでもない望美が一人で生きていくには無理がある。


「君さえ嫌でなければ…僕と一緒に暮らしませんか?」


僕が君に今出来ること、それは彼女に居場所を与えてあげること。


「私…は…」


望美は戸惑いに言葉を詰まらせた。


「わかっています、君の気持ちは…」

「え…?」

「九郎に悪い…そう思っているのでしょう?」

「…!」


図星をつかれて望美は複雑そうな顔をした。


「はい…」


弁慶さんと暮らす…?

この世界で男女が一緒に暮らすということは夫婦になるということ。

確かにこのまま梶原邸にいるわけにはいかない。

だからって、私は…私は九郎さんが…。

望美の考えていることを察したのか弁慶は優しく話しだした。


「望美さん、君の心配は無用ですよ」

「え?」

「僕と一緒に暮らすということは周りからは夫婦に見られるでしょうが、それはあくまでも仮です」

「仮…?」

「はい。あくまでも名だけの夫婦ですよ、僕は…君に決して異性として触れたりしません」


ズキン…


決して異性として触れない、自分でそう言っていて胸が締め付けられているような気がした。


「でも…私がいたら弁慶さん結婚できないんじゃ…」

「僕のことなら心配いりませんよ。…正式に出家しようと思っていたぐらいですから…」

「出家!?」


過去の罪に報いるため…そしてー…

君以外の女性を生涯愛せるわけないから…


「えぇ、だから誰とも結婚するつもりはなかったのですから気にしないで」

「でも…」


それでもやっぱり…と口ごもり戸惑っている望美に弁慶は言った。


「望美さん…僕にぐらい頼ってくれていいんですよ」

「…弁慶さん」


ねっ?っと弁慶は微笑んだ。


「…本当にいいんですか?」

「はい」


望美は少し考えて、口を開いた。


「じゃあ…もし、弁慶さんにいい人が現われたら私に気を遣わず言ってください。その時は私、自分でなんとかしましから…」

「わかりました」



…君の他にいい女性なんて現れるはずない。


僕は誰よりも君がいいのだから。


人を愛することがこんなに心地いいものだとは思わなかった。


今までたくさんの女性と関係を重ねてきたけど、こんな気持ちを抱いたのは望美さんが初めてだった。


けど、僕では彼女を幸せにしてやることもできない。


これが、今まで重ねてきた罪の報いなのか…。


そもそも僕が彼女を愛すること自体、罪なのではないだろうか。


でも…たとえ罪だとしても僕はこの気持ちを捨てることなんかできない。


君がどうしようもなく愛しいから。








++++









九郎さん…、怒ってない?


私…この世界に残るよ…。


だって…この世界は私にとって九郎さんと出会ったかけがえのない世界。


元の世界に帰って、九郎さんのことも思い出にしてしまって生きていくなんて…


そんなの嫌…。


私は九郎さんが好き。


今も、これからも…ずっとずっと…。


『きっと、君には幸せになってほしいと願っているはずです』


…弁慶さん、わかってるよ…九郎さんはきっとそう願っているってことは…


でも…私の幸せは九郎さんと生きることだった…。


九郎さんがいないから違う幸せを見つけるなんて、そんなこと…できない。


九郎さん…だから…私がこの世界に残ること許してくれるよね…?


『馬鹿…』


きっと九郎さんそう言ってるんだろうな…


会いたいよ…。




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