長編

□永遠の誓い
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命あるものはいずれ朽ちていく、それはこの世の自然の理。


人は限りある生の中で生き、そして命の灯火を消していく。


戦はいつだって、死ぬ覚悟はできていた。


咎人である僕が、なぜ今こうして生きているのだろう。


生きて罪を償うことが、僕が殺めた者達への報いになるのだろうか。


そう、思いたい。


僕は生きたい…生きて、彼女を守りたい…。


だから…これ以上、僕に罪を重ねさせないでください。


















望美を診察にあたった弁慶の友である医師の顔は険しいものだった。

固い面持ちで弁慶に顔を向けると、そっと目を伏せた。

そんな二人の様子に望美は気付いてはいなかった。


「どこか悪いところありましたか…?」


診察を終え、望美は医師にそう尋ねた。


「…いえ、異常はありませんでしたよ」

「そうですか、良かった!ありがとうございます」


どこも悪いところはないと言われ、望美はホッと息をついた。

しかし、笑顔の望美とは対照的に弁慶は厳しい顔をしていた。


「弁慶さん?どうかしましたか…?」


弁慶の様子に気付いた望美は心配そうに尋ねた。


「いぇ…何でもありませんよ」


そう言って望美に笑顔を向けるが、上手く笑えなかった。

笑えるはずがない。

こんな…こんな事実…。


「弁慶殿、ちょっと…」









++++






弁慶は友に呼ばれ一旦小屋の外へ出た。

望美には「少し待っていてください」と、なるべく不信に思われないように笑顔を作った。

小屋の外へ出ると、弁慶は大きく息を吐いた。

そして少しでも落ち着こうと、冷静になろうと、大きく空気を吸い込んだ。

小声で、ポツリと友が話しだした。


「弁慶殿」

「はい」


一瞬、空気が凍ったような気がした。

嫌な汗が背筋を滑る。


「彼女のお腹には子供が宿っています」


…やっぱり…。


弁慶の友は医師だが、今でいう産婦人科や小児科の専門の医師であった。

だから、弁慶は友の所に望美を連れて来たのだ。

最近の望美の様子は明らかに妊娠しているようだったから。

食欲が減ったり、逆に増えたり、つわりだと思われる吐気を訴えたり…。



…だけど、それを認めたくなかった。

それが事実だったらきっと彼女は傷つくから。

誰が愛する男以外の、男の子供を宿す事を誰が望むだろう。


「…っ」


弁慶はぐっと唇を噛み締め、拳を血が出るほど強く握った。


…僕の子供を宿しているなんて知ったら、望美さんは…。

望美さんは僕と暮らし始めてあまり九郎のことを話さなくなったけど、彼女は今も九郎を愛している。

きっと、これからもずっと…。


「弁慶殿…」


弁慶の様子に少し気を使いながら友は尋ねた。


「…はい?」

「あの…望美殿は貴方の奥方ではないと申しましたね、では父親は…?」


医師なら当然の質問だろう。

子供がいるということは、必然的に母親と父親が存在するのだから。


「…僕です」


父親は間違いなく自分だ。

…彼女は九郎とは関係を持っていなかったのだから。


「では、望美殿は弁慶殿の恋人で、まだ祝言はあげていないということですか?」

「…違います」

「え?」

「僕は…彼女の恋人でなければ、恋人になることだったできない…」


…僕が恋人になれればどんなに良かっただろう。

望美さんの心の中には今も九朗がいる。

だから…だから、僕はこの想いを告げないと決めた。

彼女の気持ちを大事にして、彼女の笑顔を守りたかったから。

それなのに…僕はまた彼女を悲しませてしまうのか…。


「…弁慶殿、色々と事情があるみたいですね」

「……」

「詮索はしません。けど、貴方が子供の父親だというなら二人を大切にしてあげてください」



弁慶は何も答えられなかった。


頭が熱くなって何も考えられない。



「望美殿にはどうしますか?」

「……僕がちゃんと話します…」

「そうですね、その方がいい…」


話さないわけにはいかない。

たとえ、今の彼女との関係が崩れてしまってもこのままにはしていられない。

時間は待ってくれないのだから。


「弁慶殿、貴方は変わられましたね…」

「え?」

「昔の貴方はいつも冷たい目をしていらした」

「……」

「今の貴方は穏やかで優しい目をしています」

「…そうですか?」

「えぇ、人を愛すると皆そんな風になるんですよ」

「…そうかもしれませんね」


確かに自分は変わったと思う。

たくさんの仲間、そして…望美と出会い、守るべきものができた。

誰かを慈しみ大切に想う心、それは人を成長させてくれる。


「弁慶殿は望美殿を愛しているのでしょう?」

「…ええ」

「詳しい事情は知りませんが、お二人が幸せになることを祈っていますよ」

「…ありがとうございます」




僕に幸せになる資格があるなんて思えない。


僕の重ねた罪が許されることはないだろう。


けど、ただ彼女を愛することだけは許してください。




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