長編

□永遠の誓い
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出逢い、想いを交わし、愛し合う。


その結果授かり生まれる存在が子供。


優しい両親に囲まれ、慈しまれる、大切な大切な愛しい存在。


僕は両親に望まれなかった子供ではなかった。


だから、もし自分に子供ができたら大切にしようと思った。


僕のような思いをすることがないように、愛してあげようと思った。


それなのに…こんな…。














「望美さん、僕はこれから少し出掛けてきます」

「え?」

「すぐに帰ってきます、だから留守番をお願いしますね」

「あ…」


望美が止める間もなく弁慶は出掛けていった。

遠ざかっていく背中はどこか拒絶を感じた。


「弁慶さん…」


…あれから…比叡の小屋から帰って来てから弁慶さんの様子がおかしい。

帰り道の途中もずっと会話が続かない。

話しかけても、「はい」、「そうですね」と返され話が途切れてしまう。

弁慶さん一体どうしたんだろう…。

弁慶さんはいつも私を助けてくれる、悩んでいる時、悲しんでいる時支えてくれる。

でも…私は…?

私は弁慶さんに何もしてあげられないの?

弁慶さんが悩んでいる時、支えてあげられないのかな。

何も話してくれないのは私じゃ頼りないから…?

どうして、こんなに胸がモヤモヤするんだろう。

私は…弁慶さんの事もっとちゃんと知りたい。

知りたいんだよ…。









++++







「子供!?」

「景時…もう少し声を抑えてもらえますか」


京邸にやって来た弁慶に景時は顔を歪めた。

何故なら、訪ねて来た弁慶の表情はとてもいつもの彼じゃなかったから。

どうしたと尋ねることもなく彼を邸に招き入れ、誰も自分達のいつ部屋へは近づかないように言いつける。

そして、話し始めた彼の口から出た言葉に声を目を見開き聞き返した。

『望美さんに子供ができたんです』っと…、その一言で彼の気持ちを悟ってしまった。

彼がこんな顔をしている、…ということはそれを望んでいないということ。


「っ…子供を…堕ろすつもりなのかい…?!」

「そうです」


さすがに温和な景時でも平静にはいられなかった。


「弁慶!君はそれでいいのかい!?」


…いいわけない


「それで平気なのかい!?」


…平気なわけない

平気なわけが…ない!!


「平気なわけないだろ!!」


景時の言葉に弁慶は瞳をカッと見開き声を荒げた。

眉を寄せ、唇を噛み締める。

景時がそんな弁慶を見たのは初めてだった。


「弁…慶」

「僕だって…僕だって本当は産んでほしい!けどっ…」


けど…、と弁慶は言葉を飲み込んだ。

落ち着こうと額に手を当て、軽く息を吐いた。


「すみません…大きな声を出して…」

「いや…俺の方こそごめん…」


弁慶…。

平気なわけないんだ…。

弁慶はずっとずっと望美ちゃんを愛していた。

その望美ちゃんと自分の子だ。

愛しく思わないはずもなく、本当は誕生を願わないはずないんだ。



「僕は望美さんが好きなんです」

「知ってるよ…」

「望美さんが九郎を、九郎が望美さんを好きだと知ってもずっと諦められなくて…」

「うん…」

「けれど想いを伝えないと決めて、望美さんと九郎が幸せになってくれるならそれで良かった…」

「うん」

「でも…本当はずっと言いたかった…好きだと、愛してると伝えたかったんです…」



言葉でなんか伝えきれないぐらい、彼女が好きだ。

愛している…本当に心の底から。


「弁慶…」

「あれ…?変ですね…どうして目から涙が…」


目尻に触れると涙が零れていた。


何に対しての涙かはもうわからなかった。


誕生を望んであげられない我が子に対しての申し訳なさか。


愛している人を傷つけてしまうことへの苦しさか。


とにかく胸が、心が痛くてしかたなかった。





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